インタビュー

近頃、熱海が変わってきた──。
そう実感する人が多いことは、私もいろいろなところで耳にしていました。

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その変化の仕掛け人の一人、NPO法人atamista代表の市来広一郎(いちき こういちろう)さんは、熱海生まれのUターン組。その変わり様を、熱海の街を歩きながらお伺いしました。その昔と今を知り、そして未来を考える人は、熱海にどんな想いをお持ちなのでしょうか。

熱海の街が元気に! 街づくりの仕掛け人は熱海生まれ

2016年3月、ひさしぶりに訪れた熱海の街は観光客で活気にあふれていました。駅前の足湯は満席、2つのアーケードのある商店街を行きかう人波は、シニア層に混じって若者の姿が多いのにびっくり。熱海の歴史や観光スポット、イベントなどを報せる掲示板に、夜にはイルミネーションと、商店街全体で歓迎ムードです。

熱海駅前には仲見世名店街と平和通り商店街の2本のアーケードが伸びており、どちらも観光客で大賑わい。リーマンショック、その後の東日本大震災の影響も受け閑散とした時期が長く続いていたが、それを乗り越え、街はV字回復の最中にあるようだ

商店街を抜け、海に向かって坂を下りて行くと新しいお店もちらほら。立ち寄ったカフェの女性オーナーに聞くと、オープンして半年とのこと。オーナーも店でくつろぐ客も熱海に移住してきた経歴の持ち主でした。ここ数年で、目に見えて熱海が若返っている?そんな変化が感じられます。

この熱海の賑わいに少なからず関係しているのが、「街の仕掛け人」の一人、NPO法人atamista代表の市来広一郎さんです。もともと熱海生まれで、大学院を卒業後、東京でビジネスコンサルティングをする会社に勤めていましたが、2007年に熱海に戻ってきました。

 

地道な街取材をすることで、街の課題が見えてきた

市来さんは自身のUターンのきっかけを、「衰退している熱海の街を何とかしたいという思いから」と言います。手はじめに取り組んだのは、熱海の街や人を紹介する「アタミナビ」というウェブマガジン。「ポータルサイトですが収入はありません。昼間に街の取材をして、夜は塾のバイトで稼ぐ、という生活が3年ほど続きました」と当時を思い出して笑います。
しかし、このウェブマガジンで熱海の商店で働く人や農家、面白い人をかたっぱしから取材したことが功を奏しました。「いろいろな活動や多くの人と知り合うことで、地域の課題が見え、街づくりのヒントやアイデアが生まれた」と言います。
「熱海のリゾートマンションや別荘には、都会から移住している人が多いのですが、その人たちが意外にも熱海のことを知らないということに驚かされました」。

市来広一郎さん

 

商店街を巻き込むことで、地元が元気に

熱海のことを地元に住む人にもっと知ってもらおうという思いから、2009年に「オンたま(熱海温泉玉手箱)」をスタート。市や観光協会も巻き込んだ体験交流型のイベントで、「路地裏を案内するまち歩きツアー」「文人、政治家などが愛した熱海の別荘地巡り」「五代目直伝、ひものはこう作る!ツアー」などジャンルは多岐にわたっています。最初は協力店を集めるところからスタートした市来さん。

熱海の街を歩くとあちこちに干物店があり、地元で採れた魚の一夜干しを日常的に目にすることができる

お店の人にとっては直接売り上げにつながる話ではないので、とても苦労したそうです。参加者を集めるためにどういった宣伝活動をしているのかを伺うと「オンたまのリーフレットを130棟くらいある熱海のリゾートマンションに配りに行っています。最初は素気なかったけれど、最近は管理人さんから、次のはまだ?と聞かれるようになりました。うれしいですね」とのこと。
今では73のイベントを実施し、参加者は1192人に。年々人気が高まっています。熱海の魅力は海、山、温泉だけでなく、そこに住む地域の人たちも財産。「地元の商店街や熱海に関わる人たちがパートナーとして、移住者や外から来た参加者に熱海の魅力を伝えていることが「オンたま」盛況の理由だと思います。オンたまは、地元の産業を生みだすチャレンジの苗床なんです」と話してくれました。

 

空き不動産の有効活用で若者の移住をサポート

観光客よりも、地元の人が楽しめる街をめざすという思いは、体験型のイベントやツアーの継続で次第に商店街や地域に定着。2010年にNPO法人atamista(アタミスタ)、2011年株式会社machimori(マチモリ)を設立しました。
熱海は長い景気の低迷から、多くの旅館や保養所が営業をやめ、商店街ではシャッターをおろした店舗も多く見られました。学生時代に、海外をバックパッカーとして回った経験から、地元の人が集うバルやカフェが熱海にあれば、と思っていた市来さん。手はじめに空き店舗をリノベーションしてコミュニケーションカフェ「CAFE RoCA」として再生しました。
その後、ゲストハウス「MARUYA」も手掛けるのですが、いずれの事業もリノベーションスクール(都市・エリア再生事業を全国で展開するリノベリングが運営)によるもの。リノベーションスクールとは、まちづくりの現場で実際にある空き物件を対象に、全国からの参加者や運営スタッフ、街の人たちが一緒になってリノベーション事業を構想。参加者が3日間で街の未来を考え、事業プランを練り上げ、最終的にオーナーに事業を提案、実践するというものです。

資金を抑えるため、土台は工務店に依頼するものの、内装はリノベーションスクールに参加した20代、30代のスタッフや地元の人たちによるボランティアの力で完成した「CAFE RoCA」

「こういった活動も『銀座通りのためにやってくれるなら』と空きビルを貸してくれたり、空き店舗を見つけてくれたりと、協力していただける方がいたことで実現できています」と市来さん。「CAFE RoCA」は最初の1年は赤字が続いたと言いますが、ようやく順調に。ライブやイベントができる空間として地元に親しまれています。

「CAFE RoCA」のはす向かい、銀座通りにあるゲストハウス「MARUYA」。施設の前はカフェバーに、中のキッチンでは料理教室など地元の人によるイベントも開催されている

「CAFE RoCA」や「MARUYA」で働くスタッフのなかには、首都圏から熱海に移住してきた人もいます。また「MARUYA」に宿泊した人には面白い店や飲み屋さんを紹介しているそうですが、その店や来ている人たちと仲良くなり、そのまま移住した人もいるそうです。「でも今、熱海は若い人が住みたい物件が不足気味かもしれません」と市来さん。というのは、熱海から周辺に通勤する人が4700人に対し、周辺から熱海に通勤してくる人は7000人にのぼり、40代以上の人口は増えているのに、20代、30代は減少しているのだそうです。これは、熱海には仕事があるが、若い人が熱海に住めないことを意味しています。「空き物件は増えているので、住宅不足というわけではなく、若者が求める賃貸物件が市場に出てきにくいことが原因だと思います。そこで毎月第3土曜日に空き家ツアーを開催。同時に熱海の暮らしも紹介しています」。若者が住める手頃な賃貸物件が増えれば、熱海に若者の移住が増え、街の活性化につながります。

最後に「熱海への移住は、場所や物件も大事だけどコミュニティが大切。移住する前に、いろいろなイベントに参加して、顔を出しながら地元の人とつながりを持っておくと、移住してきてもスムーズです」とアドバイスしてくれました。
「オンたま」は今年の秋から、「あたみのつかいかたTRIP」という名前にリニューアルし、季節にかかわらず、まち歩きなどのツアーを開催するとのこと。ちなみにまち歩きは毎週土曜日に予定しているので、熱海への移住を考えているなら、このようなイベントに参加してみるのもいいですね。

「オンたま」や空き店舗を有効活用したコミュニケーションカフェなど次々に熱海で活動の場を拡げる市来さん。「次のリノベーション案件もはじまり、街づくりがどんどん面白くなっています。でも山に例えるなら、まだ3合目ってところ。目標は100年後も豊かな熱海ですから」。若き仕掛け人は、地元の人たちや仲間との絆をベースに、自立した街づくりに向けて着々と歩を進めています。

※本記事は、平野ゆかり氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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