暮らし術

あれ、日没が早まったよな?

ついこの間まで19時過ぎまで明るかったのに。

夏は、くっきりとやってきて、くっきりと去っていく季節です。酷暑はしんどいですが、サンドレスをぺろっと着るか、タンクトップに短パンといういい加減な恰好で許されるのが好き。暑さのせいにしてダラダラ過ごしても罪悪感がないのも、好きです。でも、ふと気づくと空にはうろこ雲、スーパーにはさんま。日中はセミの声でも、夜になると鈴虫が鳴き始めます。

そうなってくると、巷の秋の装いと自分のありようがミスマッチになってくる。憂鬱です。
だいぶ黒いんですよね、わたし。日傘を差そうが長袖を着ようが日焼け止めクリームを塗ろうが、絶対に焼けてしまうこの肌。体内に太陽がいるのかもしれん。
夏の間はそれでもいいんですが、問題は、9月以降にげそっと色落ちしてくるみっともない状態をどう乗り切るかです。はぁ。むこう2か月くらいは、最期の声をしぼる傷んだセミのように、季節外れのくすんだ肌を纏ってしょぼしょぼ生きていくしかありません。

まあそれにしても、今年の夏も、週末はよく外で過ごしました。
東京ではお尻が四角くなるほどパソコンの前から動かず仕事をしていますが、南房総では日中はほとんど家の中におりません。
朝ごはん前後は野良仕事、日が高くなったら慌てて水着に着替え、シャワーがわりに近所の海にドボンッ!サッパリしたところで帰ってきて、スイカ食べて、西日のキツい夕方もうひと仕事。けっこうな充実感ですが、そりゃ焼けるわな。

黒くなるのはともかく、熱中症や脱水症状はいけません。
もうちょっとで終わるからがんばっちゃえ、と無理をして、後悔すること数知れず。
近所の小出さんから「汗がじわっと出るぶんにはいいが、だらだらかくまで作業をしてはいけない。そのあとすぐ気分が悪くなって、回復に余計時間がかかるぞ」と教えてもらいましたが、まさにその通りです。

 

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梅ジュース、冷やし梅。ぷるんと張った果肉が本当に美味しく、一気にリフレッシュします。

そんなわたしのこの野外生活を支えていたもの。
それは、外作業の合間にごくごく飲む自家製の梅ジュースでした。
キンキンに冷やした水と割って飲むと、全身に染み渡ります。昔、同居していた義祖母が酸っぱいものを食べると目をバッテンにして「っあァ~!効クゥ~!」と絞り出すような声で言っていましたが、まさにそんなかんじ。疲労回復のクエン酸効果はなかなかのもので、ハァハァしながら帰ってきても、これで一息つくと見違えるように元気になるのです。

この梅は、5月末から6月初めにかけて収穫したものです。
梅って、本当に利用価値の高い実なんですよね。梅干し、梅酒、梅ジュース。この時期にがんばって収穫して加工すると、それから次の梅が獲れるまでずっと楽しめます。だから、どんなに仕事が大変でも、梅仕事は最優先。スケジュール帳に「梅」「梅」と予定を入れて時間を割いておくくらいです。

とにかく1本の梅の木に、なるわなるわ。
かなり贅沢に、傷みの入ったものを除いて獲ったとしても15㎏以上は収穫できます。
手が空いた家族はとにかく梅だ梅、梅獲ってこい!と。

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今年は豊作でした。ちょっと青いものは梅酒や梅ジュース用、赤みが出るまで熟したものは梅干し用です。高いところの収穫は脚立をたててのオトナ仕事。

獲ったらすぐに数時間、水を張ったタライに入れてアクを抜きます。
その後、ホシ取り。
ホシとは、梅のなり口についている軸のこと。これがくっついたままで漬けちゃうとアクが出るので、竹串など先の尖ったもので1粒1粒丁寧に取り除きます。
これが、けっこう時間かかかるの!
以前はわたしが一人でやっていました。うんとこさ収穫した梅を東京に持ち帰って、あー原稿終わってないけどなあ、家事も残っているなあ、でも梅傷むからこっちが先だなあ、なんて思いながらの夜なべ。梅の香りが素晴らしいのが励みとなり、なんとかがんばってきました。

それが、今年はなんと、娘2人が「やろうか?」と名乗り出てくれたのです。わお!
「いいよ、やるよ。全部やったらいくら?」と。
なんだバイトか。
小学5年生のポチンと、1年生のマメ。どちらも月のおこづかいが大変貧弱なため、家庭内バイトで生きているのです。「途中で飽きてやめちゃったりしなければお願いしようかな」というと、ほとんど半日、けっこうな集中力でホシ取り奉行。
小さな手を器用に動かすマメに「ねえママ、すごくうまくなってきた。これできるようになると、なんかいいことある?」と言われて、答えに窮する母……来年も生かせる技だよ!としか申し上げられません。

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がんばれ!ホシ取り娘たちよ。

ホシをきれいにとった梅たちは、コース別にさらに下ごしらえをして漬けていきます。
梅干しコース、梅酒コース、梅ジュースコース。
東京の家の台所に、各種梅の大瓶がダーッと並びます。漬けきれない梅は冷凍。
ふう。

それにしても、わたしもずいぶん変わったものです。
以前は、こういう時間のかかる保存食づくりなどしようとも思いませんでした。だって圧倒的に面倒臭そうだし、ただでも忙しいのに素人のわたしが四苦八苦してつくらなくても、プロがつくった美味しいものを買えばいいじゃない?と。手づくりへの憧れは皆無。自分でつくったから美味しいなんて、思い込みじゃん、と。

それが、鈴なりの梅が目の前にちらつく環境になってみると、時期を過ぎて実がぼろぼろ落ちる様子が忍びなくて、生来のケチ根性がムクッと顔を出し、「獲れば使えるなら、獲ろうじゃないの?」となった次第。で、獲って漬けてみたら、毎日瓶の中を確認するのが楽しくてなり、梅からじゅわーんと染み出る汁が次第に瓶を満たしていく様子に毎日心躍らせるようになりまして。できてからも発見と考察の日々は続き、この砂糖の量でこんな甘さかな……とか、塩加減は来年はもうちょい緩めようとか、お世話になったあのひとに一瓶つくってプレゼントしようとか、暮らしの中に梅がぐいぐい入り込んできてしまったのです。

つまり、東京の暮らしに、南房総が入り込んできた、ということ。
平日は東京、週末は南房総という住み分けがありながらも、東京で南房総を味わう時間の豊かさよ。相変わらず作業自体は面倒ではあるけれど、最初はコショウくらいだった実がどんどん大きくなって、たわわに実って獲ってこしらえて、日々瓶の中で変化する梅を見続けたあとに口にすると妙にありがたく、食べる時いちいち嬉しいし、美味しい。
いや、ほんとに美味しいかどうかは分からんが、思い込みだろうがなんだろうが食べ物をつくって食べる時間がこんな風にみっしりと幸せなら、いいや。そう思うようになったワケです。

今年も、土用を過ぎて晴天の続く頃。
梅干しの仕上げとして、3日間天日干ししました。

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並べているだけで口の中につばがたまります…… 赤紫蘇の色ムラはご愛嬌ということで!

3年前はまあまあだった。
2年前は塩の分量を間違えて表面がキラキラ塩吹いて100年持ちそうなヤツになってしまった。
去年もちょいしょっぱかった。
今年はどうかな?

味見をすると、うーんなんて絶妙。まさに塩梅よし!塩しか使っていないので市販の梅干しのようなまろやかさはありませんが、ちゃんとしっかりすっっっぱい!
口の中で太陽の濃い味がします。鼻に抜けるモモのような香りもある。
ご飯が何杯でも食べられちゃいそうだ。

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恍惚の梅干しごはん。 質素というか。贅沢というか。

 

南房総は早場米で、もう新米が収穫されています。
うちはお米はつくれていないけれど、いろんな友人が丹精した新米をいただくときは、まずごはんだけ。次に「能登の海塩」をぱらっとかけて。さらには、この極上梅干しを真っ白なごはんに添えて。1年のうちでいちばん美味しいお米の粘りと甘みを味わいます。
いやーん楽しみすぎるっ。

実はこれを書いているのはまだ8月。アップされている頃にはきっと、食欲の秋に没頭して自分が黒いかどうかなんでどーでもよくなっているんだと思います。

では、また次回!

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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