暮らし術

1月前半までのあったかさから一転、とうとう冬らしいキツい寒さがやってきましたね。

先日、東京は突然の雪でまさかの大混乱。うちの最寄り駅も構内に入れる状態ではなく、2時間でも3時間でも電車に並んでとにかく仕事場に向かうという立派な人たちでごったがえしていました。この様子を一瞬見て引き返し、打ち合わせ場所の目黒まで車を走らせたんですが、道すがら通りかかるバス停はどれもびっくりぽんの長蛇の列で、普段は歩いている人なんてほとんど見ない大通りも歩行者の行列ができていました。
首都圏の交通網の脆弱さが露呈……といわれてましたけど、大雪の時くらいは休んでもオッケー!という世の中になる方が、いいなあと思うんだがな。昔からハメハメハ大王の学校嫌いのこどもらに憧れ、風が吹いたら遅刻しちゃって、雨がふったらおやすみしちゃう、というのがオッケーな社会になれ~と願ってましたから。

南房総は雪降ったかな?と思って友人のFacebookの投稿を見たところ、今回は降らなかったとのこと。被害がなさそうでよかったです。

というのも、南房総もたまーに大雪になるんですよね。
2008年だったでしょうか、あわや帰れなくなりそうなドカ雪が降ったことがありました。

ここは白骨温泉か?というほどの積雪。道中が怖かった。

ここは白骨温泉か?というほどの積雪。道中が怖かった。

 

こうなってくると、家の中は冷蔵庫以下の冷え込みに。
というか、暖冬だのあったかい日だのと言われている時でも、基本的に家の中は寒いんですよね、うち。そこらにフツウに生肉を置いておけるくらい。

床板の間から地面が見えます。

床板の間から覗くと、地面が見えます。

写真だと、ただの廊下ですけどね。笑。
でもいつもつま先立ちでここを通るわたしには、画面からしんしんと冷気が伝わってくる気がします!廊下の床板の下は、外なのです。
つまり、たまにこういうことが起きるんです。

やあ。残念。ここは部屋の中だよ。

やあ。残念。ここは部屋の中だよ。

低気密低断熱、ここに極まれり。といったかんじです。
昔の人たちは、通風を確保して湿気を逃し、家を長持ちさせることを考えて建てたということが、よく分かります。人間本位ではなく、家本位の建て方です。

この家を買った当初、売主さんから「築100年以上ですよ」と言われていて、それからすでにかなり経っているので、竣工したのはだいたい120年前くらいだと思われます。森鴎外が『舞姫』を書いたり、日清戦争が起こったりという、明治の中頃です。
その頃は、屋根はもちろん茅葺きで、天井は張られておらず、部屋の真ん中にいろりがあったはず。集落には茅葺の家々が連なり、田畑は今のような土地改良後の区画ではなく、細かい段々畑や棚田だったでしょう。実際はどんな風景だったのかなあ。

そんな時代からずっとこの家はここにあり、日々の暮らしがあり、おじいちゃんとかおばあちゃんとか父さん母さん、こどもたちが、寝たり食べたり育ったり亡くなったりしていたということです。うちの子らと同じように、凍える手をすり合わせながらお便所に行った子がいたんだろうな。おひつのご飯がすぐに冷たくなる朝ご飯や晩ご飯があって、鼻筋を凍らせて眠る家族がいたんだろうな。

冷たい廊下を歩きながら120年前へ思いを馳せると、その地続きな歴史のさきっぽに自分たちがいるというご縁が何とも不思議で、何ともあたたかいものに感じられます。

インターネットによって世界と共時的に横一列でつながれる環境にいるわたしたちですが、時間の縦軸方向につながっている感覚は、南房総の暮らしの中でこそ感じられるものだったりします。更新の早い都市の中では、なかなか得難い感覚ですからね。

冬の夜にこぼれる窓明かりを見ると、人肌恋しくなるね。

冬の夜にこぼれる窓明かりを見ると人肌恋しくなるのも、きっと昔からそう。

そして家の外にも、この土地の歴史と同じくらい長い間繰り返されてきた、毎年恒例の出会いがあります。
まだこーんなに寒くて、これからもっともっと寒くなるっていうのに、ちゃんと来るんだよな。春が。

今年の第一発見者は、末娘のマメでした。
朝、こっそりひとりで外をうろついていたマメが、走って帰ってきました。
「見つけたよ、来て!」

これだよ、ママ。

これだよ、ママ。

 

こんにちは、フキノトウ!
おめでとうマメ!
いつもは1月末に会えるのですが、今年は中旬に見つけることができました。

フキノトウ探しは、宝探しです。「さあ、今朝はそろそろあるかな」と声に出して言ってみると、ハッそうだ、そろそろふきのとうの季節だ、と気付いたこどもたちは外に飛び出します。すでにどの斜面に生えているか知り尽くしているので、あたりをつけて腰を曲げてウロウロ。
しょっぱなのフキノトウはまだ固く閉ざした状態であまり目立たないので、枯れたフキの茎の根元をよく広げて確かめなければなりません。おいそれと見つけることができず、ないなあ、まだなのかなあ、と思っていると、ふと目に留まります。
茶色い地面に、仄青くやわらかい色を放つ芽が。

で、ひとつ見つかると、何だかコツがわかったように、あっここにも、こっちにも、と見つかり始めるんです。そうするともうね、目が探しちゃって止まらない!!ゲットすることで満足するどころか、「絶対他にもこの近くにあるはず」と欲が出て、あたりをくまなく探し回らなければ気持ちが収まらなくなるんです。

山菜採りの楽しさって中毒性があるんですよね。
これって言ってみれば、ゲームやショッピングと同じかもしれないと思います。獲得欲です。
むしろ順番でいえば、魚とか獣とか山菜とかをゲットするという自然環境がまわりなくなったから、ゲームとかでその欲求を満たそうとするようになった、ということかな。だとしたら、ゲームがやめられないのも分かるかも。笑。

ちなみに以前、理事長を務めるNPO法人南房総リパブリックで運営していたカフェがヤフーニュースで取り上げられたとき、『ゲームを捨て里山にいこう』というタイトルの記事になったんですけど、実にいろんなコメントがついてましたね。「里山にいてもそこでゲームはする」「田舎にはなにもない」「田舎の子どもほどゲームにハマってる」などなど。
そうかあ。ゲーム捨てられないかあ。田舎は何も、ないかあ。
うちの家族は週末だけの田舎暮らしですから、自然のある暮らしの魅力は色褪せないんですが、それが生まれてからずっと変わらぬ日常になると見えにくくなるのかなあ、と想像します。「田舎には何もない」というけれど、わたしたちなんてわざわざ週末ごとに1時間半かけて通ってでも、草刈り大変でも、ここで子育てしたり暮らしたりしてるワケだ。多くの人たちにとって、そのモチベーションはまったく意味不明なんだろうな。

何がその人にとって刺激的か、何がその人にとっての価値か。
ずいぶんと違うもんです。

まあ、そんなわけで、マメがマメなりの欲を精いっぱい発揮して見つけてきたのが、手のひらいっぱい分。

1つ2つかと思ったら、ずいぶんがんばって見つけてきました。

 1つ2つかと思ったら、ずいぶんがんばって見つけてきました。

鼻腔を通る、青い青い匂い。
春の予感の凝縮した匂い。
この匂いは、他のどんな草花にもありません。
ああ、なんていい匂い。

マメも、鼻水をつけないでくれという至近距離でフガフガと深呼吸をしながら言います。
「美味しそうな匂いだねえ~ママ」

……ん?ほんとか?
フキノトウは、こどもにとっては苦い食べ物です。まずい食べ物、かもしれない。わたしは小さい頃、親が食べていたフキノトウを齧って、オエ~これが美味しいなんて大人って絶対おかしいと思ったものです。
でも、自分が苦労してとってきたものはどうしても食べたくなるのでしょう。上の2人の子は毎年よく食べていますが、多分マメは初トライ。

「天ぷらにするとかたまりで食べられないから、パスタつくって」

苦くても食べたい心意気を汲み、ご希望のメニューを用意することに。
細かく刻んだフキノトウとガーリックをオリーブオイルで熱し、パスタに絡めただけのアーリオオーリオです。

いくらでも食べられてしまう、禁断の味です。

いくらでも食べられてしまう、禁断の味。

これがね……ほんっっっとうに、美味しい。
フキノトウの風味はガーリックとよく合います。お好みでちょっとレモンをかけてもさらに美味しい。上品なのにワクワクする、最高の風味です。世知辛いコトをいいますけど、東京のレストランで食べたら1皿1000円はしますね!むふふ。
マメも「これなら食べられる」ともぐもぐ食べてました。食べられる、という言葉がびみょーなラインをついていますがまあ、いいでしょう。美味しいと思えるにはあと10年かな。毎年ちょっとずつ食べて、好きになるといいね。

これから本格的にフキノトウがでてきたら、天ぷら、ふき味噌、フキノトウチャーハン(ラードを使うと美味しい)などなど、毎日の食卓が楽しみです。そうしているうちに、ゆっくりゆっくり、本当の春がやってくるんだよね。

そうそう。
それから、上記のように冬さむーい我が家ですが、実は来年あたりには、もっとあったかく過ごせるようにしたいと思います。今までは、歴史に寄り添う気持ちを持ってあえて家に手を加えず、愚直に古さを楽しんできましたが、これからはちょーっとずつ快適に暮らせる家に変えていこうかなと。
そう、フキノトウを、120年前にはなかったレシピで大人もこどもも楽しめる食材にするみたいに、ね。
その試みについては、またいずれ書きます。風邪ひかないで待っててくださいね!

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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