暮らし術 2016-01-31 15.54.25

先日、三芳の家に行きましたら、ようやくあたり一面が茶色く枯れた景色になっていました。
おや、今ごろ冬が来た!というかんじです。

いつもでしたら年越しあたりの時にそうなるところですが、今年はやはり暖冬ですね。フキノトウが葉の枯れきっていない状態で新しい芽を出していたから、このままずるずる緑の冬かと思っていましたら。

ようやくあたまを出したら、冷たい霜にあたるんだからね。

ようやくあたまを出したら、冷たい霜にあたるんだからね。

 

朝、霜が降りるような寒さはほんとうに辛いものですよね。布団からもコタツからも出たくありません。
なのに、朝ごはんの支度はしなきゃいけない!ものすごく寒い台所で。
とにかくすぐにお湯を沸かし、湯気に手をあてながらのろのろ支度します。「さみ~な~」「ったくなんでママだけ」と家族への恨み節やら、「外より寒いなんてどういうことだ」と家への恨み節をぶつくさ口にしながら。
あー、あったかい家が欲しいなあ。

……先月掲載の記事「仄青くて、苦くて、いい匂いで、ほんとに美味しいアイツがもう出ています」で、寒い我が家についてお話したかと思います。住み始めて丸9年、そのままにしているということについても。

その理由のひとつは、古い民家の空間の美しさにありました。
わたしは若い頃に建築設計の仕事をしていたということもあり、どうも「美しい空間」に弱いんですよね。我が家はなんの変哲もないただの古い農家なんですが、それでも、ふすまや障子で区切られた和室の清々とした雰囲気や、それらを開け放った時の軽やかな骨格が本当に好きで、いるだけで幸せな気持ちになる。だから、「その雰囲気を損ねるくらいなら寒い方がマシ!」と思ってしまうし、そもそもめんどくさい(実はそれも大きい)ということで、譲り受けた古民家そのままの状態で暮らしてきました。

ということでこどもたちはコタツから出ようとしません。スイッチ消すよ!

ということでこどもたちはコタツから出ようとしない。スイッチ消すよ!

ただ、それがベストと思っていたわけではありません。「古い民家の雰囲気はそのままに、暖かく住まうことのできれば、そりゃあそれに越したことないさ!」とは、思っていました。だけどそんなことできっこないだろう、と、ほぼ諦めながらね。

それが、ある日。
世田谷区で内覧会をしていた「断熱性を高めることで快適性を高め、太陽光発電との合わせ技でエネルギー消費がゼロになる」という環境性能の高い分譲住宅を見に行った時のことです。この家を設計した建築家の竹内昌義さんと話をしていて、ダメ元で「あのー、たとえば古い農家のような、まったく気密性のない寒い家でも、暖かくなる断熱改修ってできるでしょうか?」と尋ねました。同時に、それはまあちょっと難しいでしょうね、という答えがくると想定しつつ。
ところが竹内さんは「そうだなあ、やれるんじゃないかなあ」と返してきました。「この家みたいな完璧な断熱はできませんが、うーんそうだなあ、今よりずいぶん良くなる方法がきっと、あるんじゃないかなあ」と。

思いもかけない前向きな返事にわたしは嬉しくなり、「うちだけでなくて、古い民家はだいたいどこもすごく寒いんです。でも、大きなお金をかけて断熱改修するのは難しい場合が多くって。どうにかする方法を、考えていただくことはできないでしょうか?」と畳みかけてしまいました。ほとんど藁をもすがるような気持ちで。
すると、「いいですよ。お金をかけたくないなら、自分たちでやればいい。自分たちで断熱改修ができる方法を考えましょうよ」と、快諾をいただいてしまいました。

“寒い民家の雰囲気はそのままに”
“大きなお金をかけずに”
“断熱改修して”
“エネルギー消費量も減らして”
“冬を暖かく過ごせるようにする”

この、5つの条件をすべてクリアする術があるのなら、きっと寒い家に住んでいる人はみーんな喜ぶに違いない!
実験でもいい、やってみたい!

「やりましょう」と握手してそのまま立ち消えになる話は山のようにありますが、これだけはそんなもったいないことにしたくなかったので、さっそく行動開始しました。

運営しているNPO法人南房総リパブリックのメンバーに相談して、この断熱改修はみんなで学べるようワークショップ形式で行うことに。
『南房総でDIYエコリノベ!』と題して参加者を募集したところ、なんと全国からぞくぞくと参加希望の応募が寄せられました。「うちも冬が辛いので、ぜひノウハウを学びたい」「両親の家を暖かくしてあげたい」などのコメントもたくさん寄せられ、“あったかい家が欲しい”という思いは共通のものだったんだなあ、と改めて確信したのもこの時でした。

改修する家はできるだけ公益性のある場所がいいなあ、という思いから、南房総市内の古民家を拠点とする「森のようちえんはっぴー」を使わせてもらうことにしました。ここは南房総の自然の中で目いっぱい遊ばせて育てるというワイルドな保育で注目される幼稚園で、「ないものは、知恵と工夫でつくりだす」という理念を持つ園長先生は、「DIYで暖かい家をつくりたい」とするわたしたちの気持ちを汲んでくださいました。

そして、冬の寒さが骨身に浸みる1月末。
『南房総でDIYエコリノベ!ワークショップ』
が、はじまりました。
ほとんど前例のない古民家のDIY断熱改修を、初めて会った人たちと、初めて訪れる場所で行うわけです。半分実験のようなワークショップですから、主催者のわたしたちはどっきどきでした。

さて、ここから先は、写真をメインにお伝えしていきますね。

あっすみません。これは作業前にかならずするラジオ体操。あやしい修行とかではありません!

あ、これは作業前恒例のラジオ体操。あやしい修行とかではありませんので!

 

大工の忍田さんから、道具の使い方を習ってからはじめます。

大工の忍田さんから、道具の使い方を習ってからはじめます。左に立っているのが、このワークショップのきっかけをつくってくれた、建築家ユニットみかんぐみの竹内昌義さん。

まずは、床下断熱。
畳をはずすと、下地板の下はもう、外。こりゃ寒いはずだわ!
下地板の上に気密シートを張っていきます。

この黄色いのが気密シートです。

この黄色いのが気密シートです。

 

で、隙間風の入らなくなったところで、上に薄いスタイロをぴっちりのせていきます。
部屋の墨出しもしっかり行っているから、ほんとうにぴっちり。

ちょっとも隙間なく、ね。

ちょっとも隙間なく、ね。

 

こうするだけで、床が暖かくなるなんですね。
それまでは立っているだけで足がジンジン痛く冷たくなっていたというのに、足元の冷えが感じられなくなります。
すごいわ~~、と床にほおずり。

冷気のレの字も感じません!

冷気のレの字も感じません!

次に、断熱障子をつくります。
実はわたし、間仕切りが障子だということで断熱を諦めていた節があります。「隔てているものが障子紙1枚だよ?」と。だからといって、壁をたてるのはイヤなの。(←わがまま)
でも、ちゃんと断熱性能を高める方法が示されたのです。

障子の上に、ツインカーボポリカーボネート板を張ります。

いや~これでも十分美しいですね。

不思議なテクスチャー。この状態でも十分美しいですよね。

それを檜材の桟で押さえ、

わりと細かい仕事です。インパクトの使い方もどんどん上手になります。

わりと細かい仕事です。インパクトの使い方もどんどん上手になります。

上に障子紙を張ります。

霧吹きをかけて和紙を伸ばすんです。

霧吹きをかけて和紙を伸ばすんです。

これで、3層の空気層ができることになります。
既存の障子紙と手前の障子紙の間に奥行きが生まれるため、ふわりと桟の影が生まれ、まるで美しさを追求したかのような仕上がりになりました。これも、想定外。

陰影が見事。

桟の陰影が見事。

障子の引き戸の合わせのところにモヘアという隙間テープを張れば断熱バッチリです。

さらに、屋根裏の断熱を施します。
「水を入れたビニール袋があったとします。横に穴をあけるのと、下に穴をあけるのとでは、下の穴からの方が勢いよく水が出ますよね。それを上下ひっくり返した状態が、室内の空気の動きです。暖かい空気は上にどんどん上がり、抜けていく。それを止める屋根裏断熱は、だからとても重要です」。竹内さんの解説に、みんな大納得!

と、いうことで屋根裏に入ってみると、うっ……すごい。
そこには、過去にお入りになったのであろうハクビシンのう○こが山盛り。大工の忍田さんは、それを黙々と片付けます。

天井を歩くとぶち抜いてしまうので、梁の上だけを伝って作業します。

天井を歩くとぶち抜いてしまうので、梁の上だけを伝って作業します。

時間が経っているので匂いはありませんが、箒で掃くたびにもうもうと埃が立ちます。屋根裏なんて、普通入らないもんね。ふと、「うちの屋根裏はどうなっているんだろう……」と不安になった次第。我が家も数年前、ハクちゃんが侵入して大運動会をしてましたから、こんななんだろうな、と。
今度意を決して入ってみよう。

さて、ハクちゃんの置き土産をきれいにし、心許なかった天井の吊り子を忍田さんが補強した後、厚さ100mmのグラスウールを敷き込みます。
これが、けっこう、キツイ仕事なんだな!
何がキツイかというと、グラスウールを扱うと体がとってもチクチクするのです。「マスクをして全身を覆ってやりましょう」と言っているわけですが、どうしても出てしまう顔や手首、それからなぜか背中なんかもチックチク。
敷き詰められたグラスウールはまるでふかふかのお布団みたいなんですけどね。

ふっかふかのようで、実はチックチク。棒で奥まで押し込みます。

ふっかふかのようで、実はチックチク。棒で奥まで押し込みます。

 

さて、これで床、壁、天井の断熱改修が完了です。
本当に断熱性能は高まっているのかな?
障子を閉めた10畳+8畳の続き間に、たったひとつ小さなヒーターをつけて、ミーティングを開始します。

ミーティングをしながらも、室温の体感を気にする参加者たち。

ミーティングをしながらも、室温の体感を気にする参加者たち。

すると、じわ、じわ、と部屋に暖気が充満していくのが分かります。外での作業で着ぶくれていた参加者たちはみんな、「あったかいよね」「うん、あったかい」「むしろあったかすぎるくらい?」と、ざわざわ。こどもたちは靴下を脱ぎ始めます。

うわ~~~。
ホントにあったかい。あったかくなったよ!
外気温は5度くらい。部屋の温度は18度くらい。
これは、もしや、大成功かも?

そしてもうひとつすごいのは、4日間の作業はどこに費やされたのか分からないくらい、部屋の風情は変わっていないということです。(障子がマニアックに美しくなったという変化のみ。)
かかった費用は、実費で50万円を大きく下回りました。

つまり、風情も、暖かさも、コストも、何も諦めなくていいということ。
正しく断熱を施せば、古くても快適な空間が、ちゃんと手に入るということが実証されたわけです。

実はこのワークショップ、週末2回、つまり4日間かけて行われたものでした。他にカマドやスノコ、ベンチなんかもつくって。終わる頃にはみんな、別れがたいことに。

実はこのワークショップ、週末2回、つまり4日間かけて行われたものでした。他にカマドやスノコ、ベンチなんかもつくって。終わる頃にはみんな、別れがたいことに。

このコラムを読んでいるみなさんは、ひょっとしたら古民家暮らしを所望していないかもしれません。
でも、日本の家屋の約8割が、断熱性能がとても低いか無断熱という状態とのこと。けっこう、タニンゴトではないんですよね。
また、田舎は昼夜間の温度差が激しいため、夜はかなり冷えます。多分、日本中で「さみ~!」という夜を過ごしている人がたくさんいるはず。寒い家は精神的にも肉体的にもキツく、ヒートショック(家の中の急激な温度差がもたらす身体への悪影響のこと)で亡くなる方は年間5000人近くにものぼるとのこと。
これが改善されれば、田舎の居心地がぐんとよくなるんじゃないかなあと思います。「おばあちゃんち、寒いから行きたくない」なんて、もう言わせないからね!

それから、もうひとつ大きな発見がありました。
どんな作業も「みんなでやると、楽しくなる」ということ。
これは、竹内さんと共にこの断熱改修の手法を編み出してワークショップをすべて仕切った講師の河野直さんが身をもって教えてくれたことでした。

左が河野さん。その場その場で的確な判断を出しつつ、ウフフという人柄で現場が本当に楽しくなる!

左が河野さん。臨機応変に的確な判断を出しつつ、ウフフな人柄で現場が本当に楽しくなる!

 

ちょっとうまくなった人が、新しい人に教える、という学びの連鎖。

ちょっとうまくなった人が、新しい人に教える、という学びの連鎖。

DIYってけっこう心折れそうな大変な局面にぶち当たることがあるんですよね。やり始めたら試練だらけ、ノルマ感ばかりが募ってうんざり。 “DIY鬱”なんて言葉があるくらいです。
でもなぜか「みんなでやれば、楽しくなる」。
今回も難しい作業、はかどらない作業、緊張する作業などいろいろありましたが、間違えながら、笑い飛ばしながら、助け合いながら進めるとぜんぜん苦じゃない。それどころか、じぶんでつくる喜びが倍増するものなんですね。

と、まあ、今でもあの興奮が蘇るほど、強烈な体験をしてきたわけですが、ひとつだけ心にひっかかっていることがあります。
それは……

まだ、我が家は寒い!!

ということ。笑。
たくさんの学びを得たし、こんどは我が家をやりますぞ。
来年こそは「あったかい冬」を過ごせるよう、がんばろうと思います。
みなさんも興味があれば、ぜひ、ね。

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。
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