暮らし術 入っている

「まあ!!なんてかわいいんでしょう!!」
と頭のてっぺんから猫なで声を出すのは頼むからやめてくれ、と息子に言われています。

何でこの声が出てしまうのか、自分でもわかりません。不気味なおばあさんっぽいし、聞いていたらウザいだろうなとも思います。
声をかけてしまう相手が、こどもとか猫とか犬などに限らないのもやっかいです。一生懸命に生きているものすべてが、該当してしまう。

先日は、館山の桟橋でその失態を演じてしまいました。自分では自覚がないのですが、複数名から証言があったので認めざるを得ない。見た途端に「なんてかわいいんでしょう!!」と言っていたらしい。
相手は、ウミホタルです。

なんと魅惑的な受付!

なんと魅惑的な受付!

今、館山市では週末に『ウミホタル観察会』が行われています。
事前申し込みをし、応募者多数の場合は抽選。
どこかのサイトでこのイベントを知り、すぐに申し込みました。ずいぶん前に一度見たことがあり、とても美しかった記憶があるのです。「ホタルとウミホタル、どちらを見に行きましょうか?」とデートに誘われたら「ウミホタルにしましょうよ!」と即答しますね、わたしは。まあ誰も聞いてくれませんが。

しかも、どうやらウミホタルを「これですよ」と見せてもらうのではなく、自分で採取することになっているらしい!
やばい。血が沸騰しそうだ。大好きなタイプのイベントです。
こどもたちはどうだろう。昔だったら飛びつくであろう息子のニイニはすでに高校1年。昔から知らない人の集まる場所の苦手な娘のポチンは小学6年生。唯一、今でも生きものを追いかけて一緒に楽しんでくれる小学校1年の娘マメは、喜んでくれるだろうか……

ま、その場に連れて行ってしまえば逃げられまい。
親の強権発動です。うなぎの時と同じだな。笑。

会場は、渚の駅たてやま。
渚の駅というのは、道の駅みたいなもので、館山の良質な農産物が買える『海のマルシェたてやま』があったり、博物館があったり、小さな水族館があったりと、わりと充実した施設です。そして、併設する「館山なぎさ食堂」は最近、週末だけは夜営業を始めています。

海が赤く染まるのを見ながらのディナー。デートにオススメ。

海が赤く染まるのを見ながらディナー。多分デートにオススメ。

いつもだったら、ぐーたらなわたしは「ここでお茶して待ってるから、こどもたちは行っておいで」となるところですが、今回ばかりは違います。
ちびっこがいっぱいいる集合場所に、保護者ヅラしつつ加わります。ま、保護者ですけど。
リーダーは、千葉自然学校の、しらいさん。ウミホタルの採取方法を、丁寧に説明してくれます。

あわよくばこどもと一緒に最前列で話聞きたいのを、ぐっとこらえるのであります。
「みんな小さい子じゃん……」と体裁を気にするポチン。確かに我が家は最年長家族っぽいのですが、知ったこっちゃありません。ウミホタルへの興味に年齢制限なんてあるもんか!

本当にたくさんいる!駐車場には県外のナンバーと地元のナンバーが入り乱れていました。

本当にたくさんいる!駐車場には県外のナンバーと地元のナンバーが入り乱れていました。

ウミホタルは夜になると海の中で光る、小さな小さな甲殻類です。体長は3ミリくらい。
アクアラインのパーキングエリア「海ほたる」の名前になっていることで有名ですよね。海上に浮かぶ光がウミホタルのようだということで名付けられたそうです。

「ウミホタルが生息するのは、
砂地の浅い海。
穏やかな海。
水のきれいな海。
温かい海。そして、
街あかりのない、暗い海です」。

館山の北条海岸は、それらの条件にぴったり当てはまるらしい。

先日、親戚の住む伊東に行ったとき、夜の海沿いをずーっとドライブして帰ったのですが、海は館山でいつも見ているはずなのに、なにかぜんぜん雰囲気が違うな、と思いました。
なぜだろうと思ったら、街あかりがキラキラと輝いているんですね。黒い水面に移り込む光は、華やかな海岸の風景を生み出していてとても魅力的でした。
ああ、館山の海って暗いんだな、とその時気付いたわけです。

人は街あかりに引き寄せられていきますが、ウミホタルは明かりからは離れたがり、暗いところに集まるそう。街が食い込んでいない館山の海は、ウミホタルにとって居心地のいい場所なのですね。

館山の海は、静かに暮れていきます。

館山の海は、この日も静かに暮れていきます。

採取の方法は、思ったより簡単です。
海の水深よりも充分に長い紐をくくりつけたビンを用意し、強い匂いを発する肉や魚を入れます。そのビンに、穴をあけたフタを閉じ、ビン自体が海底までしっかり沈むように水を満たして重くして、海に投げ入れる。

桟橋上の所定の場所につき、家族ごとに与えらえたビンを、桟橋の上から、どぼーーーん!

ドボーン

しっかり沈むか、見届けます。

水深は7~8mといったところ。まるで釣り糸を垂らすように、海面を見下ろします。
「あたりが暗くならないと、なかなか入ってきませんから。気長にね」とスタッフの方々に声をかけられますが、投げ入れちゃうと本当にそわそわするんですよね。

待ちきれないマメに「ママ、もう引き上げていい?」と聞かれたので「そーだねー!」と即答すると、脇からニイニが「まだ暗くないだろ、10分は入れとくって言ってただろ、我慢しろよ」と冷たいアドバイス。

2016-07-23 19.05.37 (miori の競合コピー 2016-07-28)

引き上げたいね……

ずいぶん我慢しました。死んだ魚の目になりそうなくらい、じっとり。

「でももういいよね。ね、ね、10分たったよ」
「ったくしょうがねえなあ」

おもむろに、ビンを引き上げ始めるニイニ。
おいおい、冷めた顔してたくせになんだ。
引き上げは妹にさせてあげるべきでは?笑。

張り切ってませんか?

張り切ってませんか?

ビンの中の水を、網の中にあけると、もしウミホタルがいたら光るはず。

「手でそっと、揉んでみてください。刺激を与えると、発光物質が出てきますから」

マメがこわごわと網をもむと、あれ?
光らない。

「あんまり揉みすぎると死んじゃうよ!」

ポチンが怖い声を出しますが、そーっとそーっと、もう一度。

あ!!

1匹!?

1匹!

「光った!」
「すげえ、青い」
「まあ!!なんてかわいいんでしょう!!」(←このタイミングで発言したらしい)

思いのほか強い青い光が、水ににじみます。
きっと、網の中にいるウミホタルはたった1匹。それでも、液体状のものがその1匹から出ているのが分かります。揉んだ指をふと見ると、指も青く光る!

「発光は、ルシフェリンという発光物質と、ルシフェラーゼという発光酵素が作用することでおこります」。

ホタルの光とは違い、海水に溶けて光るのが何とも優美です。水の中でつい、つい、と個体が動くと残像のように光の帯ができるのです。
彼らが自然界で光るのは、外敵から身を守るためにびっくりさせようとするときと、男子が女子を誘うとき。大真面目に命がけで光っているわけで、手で驚かせるのがちょっと申し訳なく思えます。

「でもさ、1つの個体が発する発光物質の限界もあるよね。どれくらいで光らなくなるんだろ。けっこうずっと光ってるよな?光を失ったあと水が白濁してるぞ」

ニイニは、こういう場所にいるといつの間にか小学生の頃の生きものオタクに戻ります。だから連れてくるが勝ち。「ひとりで興奮している母に、飽きれているこども」という構図はわりと早く崩壊し、全員でウミホタルに夢中です。

19時半を過ぎると、ぐぐぐっと暗さが増してきます。
バケツの中にウミホタルをどんどんためてください、と言われてるので、競うように採集に励みます。

いつの間にかとなりの家族と協働で。

いつの間にかとなりの家族と協働で。

今度はけっこう期待できるぞ、と気合を入れて次のビンを引き上げて、網の上に入ったであろうウミホタルをそっと揉むと、

たくさんいる!!

手元が照らされるほど明るい。

手元が照らされるほど明るい。

うわあ、なんて美しいんだろう。
暗い水の中が、青い光の煙に満たされてる。
隣の家族と一緒にバケツの中を覗き込み、網を揉み、感動を分かち合います。
桟橋のそこかしこから「すごいきれい!」「いっぱい!」と歓喜の声が聞こえるって、けっこうな幸せです。

 

こうして真っ暗な桟橋で、夢中になって1時間ほど採取を続けました。
もうバケツの中には、何匹のウミホタルがいるか分かりません。

「では、集めたウミホタルを直接、手で触ってみましょう」

やだ、手の中でぷちぷちしてる!
こんなにたくさん、生きてるね!
すごい光。すごい数。

手を青く染めたこどもたちがそこかしこに。
星空を引き寄せたようなドキドキが、あたりに広がっていました。

光のクライマックスです。

光のクライマックスです。

最後に、集めたウミホタルを全部海に返しました。
ざあっと入ったところ一体が、仄青くぼわあっと光り、息を飲んで見守るうちにすぐ、静かな暗い海に戻りました。
ああ、これでおしまい。

「来てよかったね」
こういう場所が苦手なはずのポチンが、ぽつんと、そう言いました。

マメは、熱心にアンケートに記入していました。

スタッフのみなさんに、届きますように。

スタッフのみなさんに、届きますように。

北条海岸には、多分これまで100回以上訪れていると思います。
でも海の底にウミホタルたちがこんなにたくさんいるということを想像して、ここを眺めたことはなかったなあ。

房総半島の西海岸は、東海岸と比べても、三浦半島と比べても、鄙びた雰囲気であることは否めません。もっと華やかな海岸文化あればなあ、と思うことだって、ないとはいえない。「観光地化」って、そういうことですよね。いっぱい人を集め、キラキラした場所にすること。

でも、そうなっていない海だからこそ、人のつくる価値とはまた違う価値を損なわずにいられている。
足元にビンを投げ入れれば、青い青い光を手の中に入れられる夢みたいな自然が、ここにはあります。

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。
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