暮らし術 クロアゲハ。

今年の夏は、しばしば台風がやってきましたね。

台風が訪れるたびに、ぶっとばされそうな古い古い南房総の我が家のことが気になって仕方ありませんでした。台風直撃中にはだいたい、南房総にいませんので。「南房総市の民家の屋根が吹き飛ばされた」とか「どこそこで避難勧告が出された」などという不穏なニュースを目にし、うちや集落の方々は大丈夫かなあと案じながら、オロオロ。
すると、風雨が落ち着いてきた頃、近所の小出さんから写真が送られてきました。概ね大丈夫そうですよ、というご連絡です。わざわざ、うちの方まで足を伸ばしてくださったようです。

まだ雨なのに見に行ってくださった模様。この一報をいただくだけでどれだけ気持ちが楽になるか!支えられて続けられている、二地域居住です。

まだ雨なのに見に行ってくださった模様。この一報で、どれだけ気持ちが楽になるか!

 

つい先ほども、台風10号が通り過ぎていきました。東京では雨も風もたいしたことはなかったけれど、雨上がりの空は、とても綺麗な雲でした。

降ったりやんだりの雨がようやく本当にあがり、コンビニにおやつを買いに散歩に出て、近所の公園を通りました。
セミはほっとしたように再び鳴き出し、風はまだまだ生ぬるい。でも、セミの抜け殻のぶらさがった草木はちょっぴり褪せてツヤの抜けた色になっていました。「おお、わたしもこんなかんじの年齢だよねー」と、妙な共感を覚えた晩夏、初秋。

誰に言われなくても、ちゃんと、次の季節がきます。

誰に言われなくても、ちゃんと、次の季節がきます。

 

さて、この夏は、仕事や私用で、さまざまな地域に行くことができました。北は岩手から、南は奄美大島まで。ほとんどずっと東京と南房総に浸かりこんでいるわたしにしては、珍しいこと。
そして、住むほどではないにせよ、土地の方々といろんな話をしたり、観光地ではない場所をじっくり歩いたりしました。出張や旅行がしばしばできる分際ではないので、ひとたびその地に足を入れたら、目も耳も鼻も毛穴も全開にしてその地域を味わおうとする欲張り、貧乏性。笑。

で、シンポジウムや講演などでお会いする方々から、「二地域居住」という暮らし方についてたくさんの質問を受けました。本当にできるもんですか?と。
多様なライフスタイルが確立されてきた今となっては、わざわざ説明するまでもないんじゃないかなと思っていましたが、それは主に東京界隈での話だったのかもしれません。

そこで、この暮らし方のメリット・デメリットや不安、疑問がちょっとでも解消されればと思いたち、今回は『二地域居住質問あるある』をまとめてお伝え、お答えしようと思います!

あるある① なぜ2つ目の居住地に「南房総」を選んだんですか?

……理由はいくつかあります。
ひとつは、房総半島に渡る「東京湾アクアライン」が我が家から行きやすい場所にあったこと。そして、南房総まで続く館山自動車道は他の高速道路よりも渋滞しにくいこともポイントでした。(房総方面に目を向ける前に検討していた神奈川、山梨方面は渋滞がすごかったので。)回数がかさむので、行き帰りにかける時間はシェイプアップしたいという思いがあります。

また、東京から近いわりに深い田舎があることも魅力でした。23区より西側はだらだらと住宅地が続く風景なのに対し、房総半島は、アクアラインを降りたらすぐ、ちゃんと田舎!笑。開発されきっていない場所がこんなに近くにあるのは、大きな価値です。
また、だからこそ、南房総はそれほどブランディングされていないんですよね。その透明感が、心地いい。これは個人的なフィーリングだと思いますが。

先日、上空から房総半島を見下ろしました。半島に向かってやたら手を振る!笑

先日、上空から房総半島を見下ろしました。で、半島に向かってやたら手を振る!笑

あるある② 地元の人とのコミュニケーションをとる方法は?

……今現在、わたしたちは集落の方々と、自然なお付き合いができていると思います。
ただ、ここに至るまでには長い時間を必要としました。艱難辛苦を乗り越えて~ということではなく、あえてそういう方法をとったというところです。
二地域居住だなんて地元の人たちから見れば意味不明ですよね。週末にしかいないって?別荘族?別荘地でもないところで?と、だいぶ不信な存在だったと思います。お隣さんと物理的な距離も離れているし、たまーに顔を合わせたりする程度ではお互いのことがよく分かるわけがありません。

もしこれが仕事の場面だったら、「わたしたちはこういう者で、こういう興味があって、こんなにアヤシくありません」とプレゼンテーションすることで理解してもらおうとするでしょう。でも、この暮らし方をはじめた当初、仲良くなった地元の方から「押しかけていかないで、興味を持ってくれるのを待った方がいい」と言われ、なるほどと思いそうすることに。
妙な家族だと思われているだろうと思いつつ、集会や道普請にはなるべく顔を出し、作業をしながらおしゃべりを重ねていきました。何だかとっても気の合うご近所さんを見つけたり、こどもたちにお菓子をくださる方がいたり、野菜の交換(ほとんどもらう専門ですが!)をしたりする中で、徐々に距離が縮まっていったというかんじです。
人間関係の構築は、印鑑をつくような契約ではないので、しみじみ相手を信頼し、信頼されるようになるまでの時間がある程度必要ですよね。

近所のおじいさんが、遊びに来てくれると、本当にうれしいです。

近所のおじいさんがひょっこり遊びに来てくれると、本当にうれしいです。

あるある③ お金かかりそうな暮らしだけど大丈夫ですか?

……かかります。移動しますし、2つの家を持つのですから。
一番大きいのは交通費ですよね。南房総の家までの交通費は、ガソリン代や高速代を合わせて1往復で約7000円。“田舎”の中では、他の場所よりも都心から近くて安いですが、月に3回行けば2万円超える出費ではあります。
また、農業用資材費や燃料費もかかります。

でも、人生の時間の流れは一筋です。どこに住もうが、かかるものはかかる。
食費などはそうですね。例えば、東京では「週末だからまあ、外食すっか」と家族でレストランに行けば5人家族で軽く5000円以上かかります。また、光熱費は基本的に使っている家の方で発生するので、夏は冷房をほとんど使わない南房総では電気代は安いです。

さらに、週末という余暇を習い事やイベントに充てている場合、それらにもコストは発生していますよね。これらを積み上げて、「週末田舎暮らし費」と比較すると、そこまで非現実的な出費ではないことが分かってきます。

やりくりは、本気でしようと思えば、なんとかなります。
東京の家を今より小さくしたっていいし、田舎の家は小さい離れを賃借していいし。

逆に、二地域居住で得た経験値をお金に換算したら、たいへん高額なことになるとも、思ったりします。お金じゃ買えない価値ですけれどね。

何にもないときはとりあえず白いごはんと梅干しで。

何にもないときはとりあえず白いごはんと梅干しで。

あるある④ いろいろ大変そうなのに、どうして続けられるんですか?

……これが一番、答えに困る質問だったりします。
個別の事情がありますから、うまく説明できません。
そして、「いろいろ大変そう」なのは確かにそうだけど、実はそこには力点はないな、と感じます。

二地域居住を始めた頃、長男のニイニはまだ6歳の未就学児でした。
クレイジーなほど生きもの好きな息子を、ゴキブリとダンゴムシとハトくらいしか見当たらない都心の環境で育てながら「これでいいのか?」と思ったのが発端で、こんな暮らし方をしてみることになったというくだりは、以前も書いたかと思います。

そうして田舎で子育てをするうちに、こどもたちはみるみる大きくなりました。
今、虫を追いかけているのは、最後に生んだ次女のマメ。女の子だからか、蝶が好きで、夏休みの自由研究も蝶。

クロアゲハ。

クロアゲハ。ゆったり優雅に飛んでいるからつかまえやすい。

一緒に虫取り網を持って走りまわる幸せを噛みしめながら、ああ、あと何年こんな風にこどもたちと一緒に過ごせるかなあ、と思います。こんな気持ちになる日がこれほど早く来るとは、こどもたち全員が小学生以下の時には想像もしませんでした。

今、わたしたちのしている暮らしは、すでに「こどもたちのため」という範囲から大きくはみ出しています。
ではなぜ、やめないのか。

答えは、「未来が楽しみだから」です。

別にわたしには、ここで暮らさねばならない義理はありません。
南房総の暮らしがなくなってしまっても、死ぬことはないだろうなとは思います。
でも、ちょっと精神が死ぬかも。笑。

わたしにとってここは、圧倒的に大事な場所になりました。
10年ほどかけて、どんどんそうなってきました。
春夏秋冬を10巡りほど見送り、友達ができ、体験を重ね、土地のありようを前より深く知るようになってくると、地域のさまざまな課題も見えてくるわけです。お客様気分はすっかり抜けて、「なんとかしたいな」と思うようになり、微力ながら地域の方々と一緒に解決方法を考えたり、そのために働きかけたりするようになる。ちいさなNPOをつくったのも、そんな想いからです。

となると、気になるのは、地域の未来の姿。この先どうなっていくだろうと、見届けたくなってきます。高齢化、少子化、若者離れ、跡継ぎ問題、空き家問題、自治体の疲弊……そんな、ほとんどいっこもよいことを言われない現実の中で、その現実をつくっている自分たちが今、できることをすれば、未来の現実が動かせるかもしれないと期待しながら。

すると次第に、今この瞬間だけでなく、「未来への期待を織り込んだ今」を、味わうようになる。

……あれ?
そもそもは子育てのために、二地域居住をしていただけなのに。
「自分たち」というのは“家族”のことだったはずなのに。
今では、10年間でたくさーんできた友達や知り合いを含めたこの地域のことを“自分たち”と言ってないか?

これが、二地域居住をながーく続けるコツなのかなと思います。
週末しかいない分際でありながら、いや、週末しかいないからこそ、より関わりを深めていく。目も耳も鼻も毛穴も全開にしてその地域を味わう。
そして、当事者になっていく。

すると二地域居住の「いろいろと大変そう」と想像されるプライベートでのあれやこれやは、すんごいちっぽけな話になっていきます。
どうしても続けたいと思えば、方法はいくらだってあるから。

うちの子たちもこんなでした。

我が家に隣接する平久里川。うちのこどもたちも、ついこないだまでこんなでした。今ではいろいろなこどもたちが、この川で遊ぶためにやってきます。誰の子だろうが、嬉しい。

と、今回はそんなところです。

暑苦しいですかね?わたし。笑。
まだ残暑なんで、いっしょくたにして許してください。

二地域居住、そんなにたいしたことじゃないと思いますよ。
はじめは、始めるだけです。

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。
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