暮らし術 やわたんまちといえばこれ。

いつもはね、外向きにアピールするのがあまり得意でないところが南房総のいいところなんだよなあ、って思っているんですけどね。
南房総に居を構えていることが、ちょっぴり誇らしくなる秋の日があります。
「見たか?この立派さを。見たか?この盛り上がりを。これが南房総の実力だ!」
と。

いや、自分が関わっているわけではないんですけどね。厳密にいうとビミョーに住んでるエリアとも違うんですけどね。「やわたんまち」は、やっぱり地域の誇りです。
何を隠そう、房州最大のお祭りですから。
10万人も来ちゃうんですから!

「やわたんまち」とは、八幡の祭り、という意味です。館山の北条海岸からほど近い鶴谷八幡宮の秋祭りで、地元のお祭りとは一線を画す、ほんとうに立派なお祭りなんです。

わたしたちは毎年、「やわたんまち」を楽しみにしています。実は人混みが苦手な長女のポチンも、なぜかこれだけは好きみたい。そもそもお祭りの好きな次女のマメは、この日のために月200円のお小遣いをためています。(うちは学年×100円がお小遣いだから)

この時期は野良仕事もいろいろ忙しく、本当なら日が落ちるぎりぎりまで外で働いていたいのですが、こどもたちの「はやく!はやく!」コールに背中を押されて早々に家を出ました。とはいっても、秋の日のつるべ落とし。あっという間に日が暮れて、やわたんまちに着く頃には、お祭りがいちばん美しく見える時間になっていました。

さあ。入口だ。

今年もここに来ることができて、嬉しいなあ。

桐紋の入ったのぼりが、高く広がる闇に堂々とはためいています。たしかにこれをめがけて神様がおりてくる気がしてきます。
長い長い参道には、ずらっと並ぶ屋台。美味しいか美味しくないかは問われることのない、ひたすらこどもたちを引き寄せるフェロモンを放つ食べ物たち、そしてガラクタ……じゃなくて玩具たち。小銭を握りしめて歩くと目が泳いじゃって、挙動がおかしくなるほどウキウキしてきます。どこで何買っちゃう?

ぷよ

ぷよぷよボールすくい。きれいだよなあ。でもなあ。

 

名産物でも何でもないけど美味しそうな鮎!

名産物でも何でもないけど美味しそうな鮎!

 

去年もいた気がするこのお兄ちゃん。

去年もいた気がするこのお兄ちゃん。

 

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需要あんのかな笑

 

屋台だけではありません。
参道の入り口付近にデンとあるのは、やわたんまち名物の「お化け屋敷」。聞くところによると、70歳のおじいちゃんがこどもの頃からずーーーーっとあるらしいです。興業なのかと思えば他の地方でやっている話は聞かず、では地元の人かといえば知り合いだという人がおらず、一体誰がどこからきてやっているんだというやわたんまちの七不思議になっているとか。

やわたんまちといえばこれ。

やわたんまちといえばこれ!「やあ今年もあったー」と妙に安心します。

しかし……このクオリティ。えっとここは学園祭?

お兄ちゃん

首が……首がよじれてますよ!

ろくろっ首の隣に座るお兄さんが「こわくないよー、こわくない、こわくないお化け屋敷」と呼びかけるも、だいたいみんな素通りしていきます。たまに中学生女子たちが緊張感のない顔で入っていくんだけど、中から悲鳴が聞こえない。どうなっているんだろ?

そのときポチンが隣で、「一回くらい入ってみようかな」とつぶやいたのを聞き逃しませんでした。
行ってみる?行っちゃってみる?!

やっぱり1歩目は恐る恐る。しかし2歩目からは……

やっぱり1歩目は恐る恐る。しかし2歩目からは……

これから先はたぶんバラしちゃいけないよね。
ひとつだけお伝えすると、けっこうキャーキャー叫びました。
なんでかって?お化けへのサービスだよ。笑。

そしたらそれが伝わったか、お化けもサービスしてくれました。

ほんとにいいの?と聞くと大きくうなずくおばけ。なんかありがたい笑!

ほんとにいいの?と聞くと大きくうなずくおばけ。なんかありがたいぞ。

お化けは大っ嫌いと頑なに拒んだマメは、うずうずと先を急ぎます。
きょろきょろと、何かを探している様子。あるかなあ、ふつうあるよねえ、と参道をどんどん行っちゃって、はぐれるから待ちなさいと追いかけます。
「あったママ!去年から食べたかったやつ。チョコバナナ!」

……あーそうだ。マメといえば、チョコバナナだ。
彼女のチョコバナナじゃんけんの勝率は10割。生まれてこのかた5戦5勝なんです。じゃんけんで勝つと、もう1本もらえるってやつね。

そして今回も。全勝記録更新!

そして今回も。全勝記録更新!

「はい、2本」笑顔のないおねえさんに促されてチョコバナナを受け取るマメ。気をよくしてポチンに1本お裾分けをして、もうお祭りの半分の目的は果たしたような満たされた顔で歩いていました。

なんでそんなにじゃんけん強いの!というと、「だいたいお店の人は、こどもはグーを出すと思ってるから、パーを出してくるから、チョキを出すんだよ」とのこと。
すっすごいや!!
その通りだから勝てるんだな!!
「でね、大人は勝とうと考えてチョキとか出してくるからグーなんだよ、次の人チョキで負けてたでしょ」とさらにドヤ顔。……すこし末恐ろしい。

ちなみにわたしはあんず飴派。すっぱさと、歯にねばりつく飴の醸し出すハーモニーが美味しくないけど好き。

ちなみにわたしはあんず飴派。すっぱさと、歯にねばりつく飴の醸し出すハーモニーが美味しくないけど好き。

屋台は二筋の通りに面して並んでおり、奥まった筋にはなかなか素敵な出店もあります。わたしはここを歩くのが大好きで、以前は手編みのカゴをひとつ調達しました。桶も欲しいけど、そこそこ値が張るんだよね。ちゃんとした手づくりだから。屋台で手に入れる金魚はすぐ死んじゃうし、食べ物の味はまあさておいてだけど、ここに売られているものたちは確かなものが多い、気がする。

うつしてもいいですか?と聞くと、「女優じゃないから正面はダメ」とそっぽむかれました。

うつしてもいいですか?と聞くと、「女優じゃないから正面はダメ」とそっぽむかれました。

 

魅力的。道具はちゃんとしたものを使わないといけない、というのは10年で身に染みていること。

魅力的。道具はちゃんとしたものを使わないといけない、というのは10年で身に染みていること。

 

ふと見ると、やけに威勢のいい声がする一角がありました。
ふらふらと近寄ると、あら、大好きな七味唐辛子だ!

七色の七味!

七色の七味!

素敵だなあお姉さん。いくらですか?
「1袋1000円。七味はね、つくってもらうもの、風味が違うよ!」
うーんちょっとした贅沢だなあ、と思うも、美人なお姉さんの口上と手さばきが鮮やかで、見つめていたら心がぐらぐらしてきました。

「一袋ください!」あ、言っちゃった。
「はいよ、味は?」
「えっと、大辛で!」
「はいよ」

注文すると、それに合わせて調合してくれます。

かっこいいなあ!これを買って帰ったあとも何度も脳内でリフレインして、食べるときも「かーらいとこ入りますっ」とつぶやいてしまう始末。
勢いでつい買ってしまいましたが、これは買ってよかったもの。実に美味しい七味でした。風味が高いので、何にかけても料理の味がワンランクアップします。息子はえらく気に入り、「お弁当のごはんにはこの七味と藻塩をかけて」とリクエストあり。
もう市販の七味に戻れない体になってしまったな。

 

さて、長い参道をどんどん進むと、境内の奥の方ではとんでもない盛り上がりでした。
“白丁”という純白の衣装を身にまとった男衆が何十人もお神輿のまわりに群がっています。そこに掛け声と甚句が浴びせられ、すごい熱気。
「そーれこい!そーれこい!そーれこい!そーれこい!」

「これは一番前で見るのがいい」と地元の人に教えてもらっています。

「これは一番前で見るのがいい」と地元の人に教えてもらっています。

重さ1トンにもなるというお神輿が宙で揺らされます。これ、1基つくるのに何千万とかかるらしく、傷みを直しながら使っているとのこと。やわたんまちで出されるお神輿は10基。それぞれの地区の誇りをかけてぶつかり合うのです。「房州男はあばらが1本足らない」と言われるくらい、このあたりの男子はのんびりしていて天然で、あんまり働かなくて、ぜんぜん戦闘的でなくて、おおざっぱなのが特徴なんです(いい意味ですって!)。なのですが、こうなると雄々しいったらありません。男の色香が漂い、何だかみんなみんなかっこよく見えてしまう祭りマジック!

この男衆のどれくらいが、実際に南房総に住み、南房総で働き、南房総で家庭をなしているのかはわかりません。やわたんまちだからってほうぼうの居住地から戻ってくる人も、けっこういるんじゃないかな。
でも、こうして自分たちの土地に、自分の汗を染み込ませるお祭りがあり、やっぱりここ好きだなーと思えれば、それだけでお祭りって価値がありますね。

各地区の神輿がずらりと並びます。この日のために何日もかけて用意している人たちがたくさんいる。その重みが伝わってきます。

各地区の神輿がずらりと並びます。この日のために何日もかけて用意している人たちがたくさんいる。その重みが伝わってきます。

 

……わたしたちが、二地域居住を始めて間もない頃。
秋になると、週末ごとにそこかしこでお祭りが行われることに驚いたものでした。

東京の地元でもお祭りがあり、家の前をお神輿が通るときには思わずおもてに飛び出してしまいますが、田舎のお祭りの真実味はまた、違う重みがあります。刈り入れ前の黄金色の田んぼ、天気を案じながら刈り入れる苦労、それらがすっと消えて1年の終わりさえ感じさせるさっぱりとした風景へ変化するのを見ながらの、行事ですから。「収穫を喜び、田んぼの神様に感謝する」というお祭りの意味をかみしめながら過ごします。

わたしのいる集落は、6年ほど前に屋台を出し、その後はお休みしています。
人不足なので出すに出せず。でも、その時のことを思い出すと、お祭りができる地区のみんなの高揚感とか連帯感とか幸せが蘇ってきて、胸の中が温かくなります。

大きな大きなやわたんまちも、平和の証です。
これからもずっとずと毎年こういう時が巡ってくるような、穏やかな日常でありますようにと、珍しくしみじみとした気持ちになる帰路でした。

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。
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