暮らし術 「ラーメン」に、「薬味(タマネギみじん切り)」を足して、850円。

東京の我が家から、南房総の我が家まで、その道のりは90キロ、約1時間半。

わたしたちはこれをもう300往復以上しています。なぜこんなに短時間で移動できるかというと、浮島ICから鋸南富山ICまで、一気に駆け抜けられるからなんですね。

東京湾アクアラインと館山自動車道というひとつながりの高速道路は、我が家の渡り廊下。一番混雑しない時間帯を選び、お供のお菓子を2種類くらい選び、好きなアルバムを2つくらい選び、食べたり歌ったりしているうちに着きますから。ワープするように移動できるのはありがたいことです。二地域居住長続きの、理由のひとつです。

そういえば10年前までは、まだ館山自動車道が完成しておらず、途中でいったん一般道に降りざるを得ない状況でした。「だったらいっそ下道だけで行こうか」なんて優雅なこともしていましたね。海沿いを走ったり、半島の真ん中を縦に突っ切ったり。

でも人間ってやっぱり、風情より便利を選ぶんですね。
館山道が完成、開通した途端にそういう寄り道はあまりしなくなってしまいました。ギュッと圧縮した往復時間の中で、房総半島全体を味わう機会もつぶしちゃってるのかもしれません。

2007年、そんなわけで一般道を走っているときにたまたま遭遇した蒸気機関車。

2007年、そんなわけで一般道を走っているときにたまたま遭遇した蒸気機関車。

ところが最近、木更津にできた大きなアウトレットパークの影響か、房総半島の人気が上がった影響か、シーズンになるとしつこい渋滞が起きるようになってきました。「ちょっとなにこれ。ここは天下の房総半島だよ?三浦半島でも伊豆半島でもないよ?」と言いたくなるんですけど。笑。

しょうがないのでもっと遅い時間に移動しよう、など工夫するようになりましたが、逆に「どうせ混むなら」と、懐かしい下道チンタラを決め込むことも出てきました。

そうと決めれば、寄り道しいしい、帰り道を楽しむしかない。

だってこんな、逃げ道のないやつに巻き込まれるなら、楽しい方がいい。

だってこんな、逃げ道のないやつに巻き込まれるなら、楽しい方がいい。

寄り道の最大の楽しみは、美味しいお店探し。
こんなに長いこと房総半島に通っていながら意外と行けていない名店がいくつもありますが、今さら「いやあ、これぞ房総じゃないか」と得心するのも楽しいことです。

そんなわけで今回は、房総半島を縦断する館山自動車道のインターチェンジからほど近いところにある美味しいヤツを二、三、ご紹介しますね。

 

☆アナゴ ~木更津金田『やまよ』~

館山道の渋滞回避で下道を走りながらどこかで美味しいものを食べたいなーと思いつつ、入る店が見つからず、そのうちどんどんお腹が減ってきて、とにかくガッツリした地元料理が食べたいのにこのままじゃアクアライン渋滞に突入しちゃうじゃないか!と焦ってきた方ならきっと喜ぶ『やまよ』。
アクアラインへと接続する道沿い、木更津金田ICのほど近くにある名店です。

かくいう我が家も、上記のシチュエーションで見つけた店でした。千葉県内で腹ごなししたいもんなあ!

普段はあっさりしたものを好むわたしですが、この日は体が揚げ物を欲していて、「アナゴ天重」をオーダー。

お重から溢れてる!

お重から溢れてる。

揚げたての大きなアナゴがドッカンと。
これ、今日の野良仕事と近所の山登りで消費したカロリーを大きく上回るよね……とチラと思うもかまわず、お腹の中から手が伸びるような勢いでかぶりつきます。

カリカリッとした歯ごたえのあと、アナゴの味がじゅわり。
味付けはしっかりと甘め。
江戸前の味付けです。

これが、疲れた体に本当に沁みます。
美味しい。体が美味しいと言うのです。

数年前まで「あー太る」とか「糖質が」などと気にすることもありましたが、ここのところ、食べ物は食べたいものを食べたい量だけ食べることにしています。甘いものが欲しい、酸っぱいのがいい、肉がいい、魚がいい。それに従っていると、だいたい体重は変動しないというミラクルな体質になっております。(でも体型は変動する。体重と重力は別物。笑)
この日のわたしの体には、この甘くてジューシーなアナゴ天重がベストセレクションでした。15分もかからずぺろり。

東京湾でとれる江戸前アナゴは、年々減っているそうです。
『やまよ』を切り盛りするのは、木更津でアナゴ漁師だったご主人亡き後にも東京湾の美味しい魚介を提供したいと店を守る女将さん。
民家しかない住宅地の真ん中に1軒、ここからにぎやかな声がこぼれていました。
多分わたしたち以外のお客は、地元の人たちでした。これ、信頼できるお店かどうかの判断材料ですよね。

ちょっと分かりにくい場所ですが、到達できた方は、がっつり食べてみてください。

ちなみに、富津岬にある『たかはし』のアナゴ天もたいそう美味です。
木更津より手前で寄り道したい場合は、そちらへ、ね。

こちらはあっさり、上品です。貝類も豊富で美味しいお店でした。

あっさり上品。貝類も豊富で美味しいお店でした。

 

☆竹岡式ラーメン ~富津竹岡『梅乃屋』~

房総に縁のない人も見たことがあるかもしれません、「竹岡式ラーメン」のカップ麺って。
薬味がタマネギの醤油味が特徴で、一時期ちょっと話題になりました。フタには“梅乃屋店主推薦”とか書いてあり、どんだけエラいお店なんだと思っていました。でも実際は、車の窓からよーく見ていないと見落としてしまいそうに小さい、地味なラーメン屋さんです。富津竹岡ICからすぐの海沿いにある、昭和29年創業の『梅乃屋』。

実はここ、過去にわざわざ行って、その日じゅうに食べられない気がして断念していました。
おもての道からは分からないんですが、店の裏には大行列。こりゃー噂どおりだな、でも行列してまでラーメンを食べたいと思うほどの執着はないな、と諦めること3度ほど。もう一生食べないかもなと思っていました。

でもこの日は、しょぼしょぼと冷たい雨の降る夕暮れ時で、家の外に出るのが億劫なお日和でした。ひょっとしたら、と勘が働き、のぞいてみたら列がちょっと短い!
中途半端な時間でしたが、これは入るしかないかなと、慌てて並んだところ、完売閉店10分前に入店できた次第。

こーんなに、みーんなが、食べたいと思う竹岡式ラーメンって、これです。

「ラーメン」に、「薬味(タマネギみじん切り)」を足して、850円。

「ラーメン」に、「薬味(タマネギみじん切り)」を足して、850円。

豚肉の茹で汁に醤油を入れただけの真っ黒い汁。
生タマネギのみじん切りが大量に。
チャーシュー麺じゃないのにチャーシューも分厚くて。
コゲが剥がれて落ちているのか?というような海苔ものっている。
そして麺は、インスタント。

胃が弱っている人は一瞥するだけでごちそうさまと言いたくなる見た目です。
ともかく食べてみると、「ほーーーぉ!」という味。
今まであまり食べたことのない味なので、美味しいかどうか一瞬では判断つきません。いろいろアミノ酸の加えられた旨味ではなく、本当に、肉の出汁+醤油の味。コクと、インスタント麺独特の食感で、ぐいぐい食べられてしまう。

タマネギのみじん切りがまた、合います。
体が火照ってくるような、濃いエネルギーが宿ったこの食べものは何なんだろう。正直、味の良し悪しは分からない。でも食べながら「これはきっとまた食べたくなるぞ」と予感させるような、妙な力があるのです。

厨房を仕切っているのは、女の人だけ。
大量のお客さんをさっさっさと仕切ります。

厨房に貼られたオーダー表も興味深い。暗号?

厨房に貼られたオーダー表も興味深い。暗号?

大テーブルに相席していたのは、やっぱり地元の人たちばかり。近所の店なのに、いつも行列を並ぶのかな?
ビールを飲みながら「○○○の野球が今日は勝てんで~~、○○だべよぉ」とお店の人と喋っている内容は、酔っているのとコテコテの房州弁なのとでうまく聞き取れません。で、そのおじさんがふと、「ねーちゃんはどこから?」と娘に声をかけてきました。
サッ、と緊張する8歳。どう答えるかなと思っていると「三芳、というところです」と。「あー三芳!東京のひとかと思ったら!」と嬉しそうに笑うおじさん。(でも東京にも住んでいます……)と言おうか迷って、その後の展開が長くなるのを考えて止めることにした、という娘の心の中が透けて見えるようでした。笑。

タマネギが3D。

タマネギが3D。

しかし。
なんで出汁とらない?
なんでインスタント?

B級グルメにありがちな奇を衒ったものなのかなあ、と思っていましたが、食べながら、店の様子を見ながら、何となく理解できてきました。
これはきっと、体使って働く人たちの胃袋を早く美味しいもので満たすための食べ物なんだろうな、と。凝ったことはせず、どんどん出すことができるもの。地元のお母さんたちが、慣れればさっとつくれるもの。骨太なローカルフードです。

カップ麺では絶対再現できない、土地の魂みたいなこの味は、現地でぜひね。

☆さんが ~鋸南富山『ハイウェイオアシス富楽里』~

ちょっと地元に引き寄せてオマケの1品。いや、2品。
うちから一番近いインターにある道の駅で、さくっと入手。

1階は野菜・魚介などの直売、2階は和食屋1軒と屋台のような惣菜屋が並ぶ道の駅『ハイウェイオアシス富楽里』にはちょいちょい助けられています。わざわざ外食するのも、家でつくるのもめんどくさい時にここでぱっと好きな2,3品を入手。これに新鮮な野菜を添えれば立派な食事になるもんね。

いつも大盛況の2階惣菜コーナー。

いつも大盛況の2階惣菜コーナー。

特に好きなのは、イワシのつみれ汁と、「さんが」です。

行きに寄って買って、南房総の家で食べました。

行きに寄って買って、南房総の家で食べました。左がさんが、右がつみれ汁。

「さんが」とは、生のアジの切り身を包丁でたたいて、ショウガなどの香味と味噌を加えてつくる「なめろう」を、ハンバーグのように整えて焼いたもの。魚の風味がちゃんと生きていて、ちょんと醤油をつけて食べるとたいへん美味です。アジだけでなく、イワシやサバなども使います。

「さんが」は「山家」と書くそうです。昔、漁師さんが、たくさんとれるアジやイワシを持ち帰って、家でこうして食べたことからそう言われているそうな。
海が近くにある山あいならではの料理、なんですね。

そして、ここのつみれ汁は実に美味しい。
仕事があってひとり南房総に来るときなど、インターを降りると吸い込まれるように富楽里に寄り、つみれ汁とおにぎりを買い、駐車場に隣接したデッキでぼーっとしながら食べます。ふわっふわのつみれが大きくて、もっとゴロゴロ何個も食べたくなるんだよなあ。

気がつけば、南房総にいると安くて美味しいイワシやアジばっかり食べているかも。内房で獲れるキンメやヒラメなどの高級魚たちは都市方面へと出ていきますが、地元でこうした青魚が重宝されています。
いろいろいいよね。お財布にも。体にも。環境にも。

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さて、これを目にした房総在住のみなさま、「ソウルフードと言えばコレだろう」とか「アレを差し置いてなぜコッチを?」など言いたいことがいろいろあるでしょう、房総は広いし、深いから!
いずれ他のラインナップもお伝えしなくちゃね。
ゆっくり開拓して、房総を再発見していくプロセスも、また楽し。

 

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。
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