暮らし術

いよいよ、1年でいちばん、めんどくさい季節に突入しております。
梅雨~~~。はあ。
みなさん、お元気ですか?身も心もカビていませんか?

どうしてもこのひとときをくぐり抜けないと、夏にならんのですね。
とはいえ今年は何だか雨が少ないようで、我が家はまだカビ攻撃には遭っていません。通常この時期は月~金の通風確保がままならない南房総の家はウルトラカビカビになるため、家に入るときは決死の覚悟、間髪を入れずアルコールシュッシュマンになるんですけどね。今年はどうも勝手が違い、意外とさらっとした畳の肌触りに安心し、空梅雨ありがとうと思わずつぶやいております。(もちろん家の事情だけ考えた場合ね!)

ただ、雨が多かろうと少なかろうと、腹が立つほど暦通りにカレンダーがぺろんとめくれた途端ににょき、にょき、にょきにょきにょき~と、出てくるやつは出てくる。

申し合わせたように、一気に出てくるんだから。

申し合わせたように、一気に出てくるんだから。

5月のうちの草竹たちの生え方なんてまあかわいらしいもんで。きっちり刈っておけば、2-3週は安心して暮らせますから。
ところが6月になると、1週間でコレですよ。
ここに家を持った当初は慄きましたね。このままいくと人の棲む場所がなくなってしまう、というリアルな恐怖で。特に、末娘を7月に生んだ2008年のことは忘れられません。端から刈っていきたいのに、お腹が大きくて刈り払い機が使えない。仕方がないから大きめの鎌で1本1本手刈りしましたが、はかどらないしすぐ疲れるしで、竹に負けゆく未来に暗く溺れていくようでした。

それが今では、この針地獄もさして怖くない。
「へ。また生えやがったか」と一瞥し、落ち込んだり考えたりする時間がもったいないのでさっさと刈る。「どうせ来週までにまた生えやがる」と分かっていても刈る。そうして1ヶ月半くらい、このもぐら叩きをちゃんとやると、盛夏の頃には竹も草もおとなしくなってきますから。
1年を通じて二地域居住を楽しむための税金だと思って、ともかくこの時期はせっせと刈りまくります。

明日からまた生えてくると知っていても、この一瞬は気持ちいい。

明日からまた生えてくると知っていても、この一瞬は気持ちいい。

これだけ見るとみなさんきっと、「何が楽しくてそこで暮らしてるんだ?」と思うでしょうよ。大変なだけでね。
でもね、じつはこの時期、食べられる実をつける木たちが年に1度、わたしたちに喜びをもたらしてくれる時期でもあるんです。

しかも、どうやら今年は当たり年らしい。手を入れていないうちの果樹たちは、「何にもしてもらってないのにそんな毎年毎年実をつけてらんねーよ」と1年おきに休んでいるため、豊作なのも1年おきなのです。

去年はたしか3粒くらいしか食べられなかった、グミ。
今年は鈴なりでした!

見るからに美味しそうでしょ。

見るからに美味しそうでしょ。

こいつを見つけると、心がぴょんと跳ねるように嬉しくなります。大好きなんです。
甘くて酸っぱくて、風味が強くて、飾り気のない野生の味。
そして、ちょっと渋い。
わたしはこの渋みも好きなんだけどね。「2粒口に入れるとうめぇんだ、なんでだか」と近所の小出さんから教えてもらったとおりにすると、確かに渋みが減って甘みを強く感じます。あ、去年も書きましたね。でも大事なことだから何度でも言うよ!笑。

娘は毎年「今年は渋くないかも」と恐る恐る口に入れ「やっぱり渋かった、、」と顔をしかめます。先日うちに来た大学生にも「美味しいからあなたたちにとっておいたんだ!」と恩着せがましく言った上で差し出すと、「ありがとうございます」と口に入れたあと、感想がありませんでした。あはは。美味しいのになあ~
なのでわたしがひとりで野良仕事の合間に口に2粒ずつ放り込み、ひとりで相好を崩しています。

それから、クワの実ね。これは誰もが美味しいと思うやつ。

黒く熟すと食べごろ。ちょっと赤っぽいのも混ぜて食べると酸味も確保できます。

黒く熟すと食べごろ。ちょっと赤っぽいのも混ぜて食べると酸味も確保できます。

上記の大学生も「あ、こっちのほうが好みです!」と笑顔になっていました。ぷちぷちしてて、甘くてくせがなく、クワの実の下に立つと時間を忘れてせっせせっせと食べ続けてしまいます。見た目どおり、アントシアニンとポリフェノールが豊富で、老化防止とか免疫力を上げるとかいろいろいいこともあるそうな。年に1度頬張ったからってどんなもんか分かりませんけどね、美味しくて体にいいならそれに越したことはない。

ところがこいつは、ちょっと気を付けて食べないといけません。
実がもしゃもしゃしているの分かります?

ちょっと毛が生えているみたい。

ちょっと毛が生えているみたい。

このもしゃもしゃのせいでよく輪郭が分からないこともあり、「わ、甘そう」「こっちもよく熟してる」と夢中になって集めて、よく見ないで食べると、多分アリさんも食べることになりますから。
よーく見ると何匹もたかってたりするんですが、実自体のもじゃもじゃとよく区別がつきにくい。で、確認せず食べてみればちょっと苦酸っぱい。それは蟻酸です、多分。食べて死ぬことはないでしょうけどね。食べたときの気分は微妙ですからね。

それにしてもクワの実って、お店で売られているのを見たことがありませんよね。おそらく、実の柔らかさのせいだと思います。潰れないように注意してつまんでも、気がつくと指先が果汁で青く着色しているというほど繊細な実なのです。これをパックに詰めて販売するのは、ちょっと難しいだろうなあ。
クワの実が大好物なのに部活の大会で南房総に来られなかった息子のために、ジップロックいっぱいに摘んで、空気を充填して持って帰りましたが、下の方はジャムみたいになってましたからね。

昔は、養蚕の盛んなところには必ず桑畑があり、桑畑は日本の代表的な風景だったといいます。
「桑畑」の地図記号さえあるくらい。

地図記号「桑畑」。見覚えあるでしょ?

きっと、学校の行き帰りなんかで、クワの実はこどもたちのおやつになっていたんだろうなあ。手や口を真っ黒にして、おうちに帰ってたんだろうなあ。
ありとあらゆる果物が手に入る現代だって、クワの実は充分、美味しいと感じます。むしろ、里山のおやつとして贅沢に感じます。翌日まで爪の間が黒くたって、「ああ、昨日クワの実食べたから…おほほ」と自慢したくなるような、ね!(ただの身汚いおばさんに見えるだけだと思いたくないだけか)

そうそう。
ついたらとれない、と言えば、これです。
ビワ!

わあ、まだ動物に食べられてない!

わあ、まだ動物に食べられてない!

去年は1こも食べられなかったけれど、今年は本当によくなってくれました。そして来年はならないでしょう。いいよいいよ、隔年で。充分がんばってくれてる。

摘果もせず野育ちさせた野良ビワですが、売られているビワに引けをとらないくらい美味しいんです。ちょっと小振りで表面に傷があったりするけれど、甘みだけでなく酸味もしっかりしていて、みずみずしくて。

たまりません。

皮を剥くとビワ果汁が滴るほどみずみずしい。

おじさんがビワ農家という友人の本間さんから教えてもらったのは、ビワはお尻から剥くとするっと気持ちよく剥ける、ということ。ぜひ試してみてください。むしろ剥くのが楽しくなりますから!

最近、「剥くのが面倒」という理由で敬遠される果物がたくさんあるそうです。みかん、桃、巨峰、いちじく、キウイ、パイナップル。もちろんビワも。たしかにビワを剥くと手はべちょべちょになるし、汁が服につくと茶色いシミが絶対とれませんから、面倒といえば面倒ですよね。

でもまあ、そんなことどうでもいいというライフスタイルもあるわけで。
わたしも、東京の家にいると「果物めんどくさい」という気持ちになることがあります。食べる喜びより、剥いたり後始末したりする手間の方が先に気になっちゃってね。でも、娘がビワの木に手を伸ばして夢中になって収穫し、「高い所がとれないのが悔しい!」と脚立をひきずってきて奮闘し、獲ったそばから剥いて食べ、口も手もビワ汁だらけになるとき、「服が汚れる」といったことをまったく気にしません。そもそもボロを着ているというのもあるし、食べたあとの種や皮は土に還るのでそのままでいいし、とっても敷居が低いのです。
厳密に言えば洗って食べた方がいいんでしょうけど、野良ビワだけに無農薬だしね。

怖がらないでもっとのぼらないと!笑

怖がらないでもっとのぼらないと!笑

お皿に綺麗に盛ってフォークで食べる果物もあれば、そうして手づかみで獲るなり食べる果物もある。両者には、ぜんぜんちがう喜びがあります。後者の楽しみは、「美味しい!」の中に獲る喜びがまるっと含まれていることなんだろうな。

さて、手間がかかるといえば、そのままじゃ食べられないコイツこそが、苦労と喜びを併せ持っていますね。
梅!

こんなになって、偉い!

こんなになって、偉い!

これがまた、もういいよというほど実をつけていて。
ええっと今日は、朝から草刈って、昼つくって、午後はちょっと出向くところがあって、夕方また草刈りして……って梅はいつ獲ればいいんだ!と髪をかきむしりたくなることも。

今年は、大学生に収穫を手伝ってもらいました。ありがとうね。

今年は、大学生に収穫を手伝ってもらいました。ありがとうね。

背負い籠に軽く3杯。
軽く20キロ以上はあったなあ。

梅は、収穫しただけでは工程の2割の進捗です。
えっさほいさと遠路東京の家まで持って帰って(車で運ぶだけだけど)まずはあく抜きでしょ。

この巨大なタライは年1度活躍する梅あく抜き用。昔はこどものプールにしてました。

この巨大なタライは年1度活躍する梅あく抜き用。昔はこどものプールにしてました。

水から上げて乾かして、次はせっせせっせとホシ取り(枝についていた部分をきれいにする)。これがエンドレスで、最初は「わたしもやる!」とつまようじを持って参戦してくれる娘たちもあまりに延々と続く作業に飽きて、いつの間にかわたしが孤独にこなします。

今年も、原稿の〆切と梅作業がばっちり重なって、梅食べて健康になる前に梅で過労だわあとげっそり。でもなんとかやり終えた頃、本間さんの奥さんから「え~真面目ですね。ホシ、取らなくても別に大丈夫ですよ。そりゃ取った方が丁寧ですけど」とニコッと言われました。

えー、とらなくてもいいのぉ?

だってどの梅サイトにも、えぐみが出るのでとりましょうって書いてあるのに。とらないでいいんなら、ぜんぜん取りませんよ。丁寧でなくていいよ!
本間さんの奥さんはさすが農家の奥さんだけあって、料理がとても上手なんですが、何がいちばんすごいかというと「何をどれくらい手を抜いていいか」を熟知していること。一番丁寧にやらない方法って、ネットで検索してもなかなか分からないんです。
それにしても、もっと早く教えてもらいたかった。
来年はホシ、取らないぞ!

で、漬ける。

まだ氷砂糖が溶けきらない、すごく酸っぱい時のシロップをフライング試飲。美味しかった!

まだ氷砂糖が溶けきらないシロップをフライング試飲。美味しかった!

梅ジュース、梅酒、梅干し、梅ジャム。
さて、これで今年も安泰だ。1年間の我が家の梅生活を支える作業に一区切り。
もちろん、うちにある保存瓶をありったけ稼働しても足りないので、残りの膨大な梅は冷凍してあります。

はあ。。
南房総が、東京の暮らしに侵食してきていますね。
こうして忙しい、忙しいとぶつぶつ文句を言いながら、「別に誰もやってくれって頼んでねーよ」と自分で自分につっこみながら、梅雨はすすんでいくわけです。
毎年のことですけど、毎年面倒で、毎年楽しいです。

そして、ほらもう、柿の赤ちゃんも。

そして、ほらもう、柿の赤ちゃんも。

 

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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