インタビュー 小沼さん

明治時代初期に宣教師が訪れて以来、西洋の文化が自然と根付いた軽井沢。食材もそのひとつで、それまでヒエやアワなどの雑穀類しか生産されていなかった軽井沢に、宣教師たちはキャベツや白菜などの栽培法を伝え今日の高原野菜へと発展しました。そして西洋料理も広まり、現代の軽井沢には数多くの名フレンチレストランが存在しています。

軽井沢の木々の高さが今よりもだいぶ低かった約20年前に、「プリマヴェーラ」をオープンし、現在は「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」のオーナーシェフとして長年のファンに愛され続けている小沼康行さんに、軽井沢ならではの魅力について伺います。

オーナーシェフ小沼康行さんの料理は、著名人のファンも多い

オーナーシェフ小沼康行さんの料理は、著名人のファンも多い

“本物”を求めるお客さんとの出会い

──小沼さんから見て、軽井沢とはどういう町ですか?

“目利き”の方が集まる場所といっていいかもしれません。私は東京の2店舗で修業したあと、いくつかのリゾート地で料理長を務めました。軽井沢に来たのは30年ほど前のことです。ゴルフ場の敷地内にあるレストランで料理長を経験したのですが、この時代にお会いしたお客様が、本当に素晴らしかったのです。皆さんお料理のことを大変ご存知で、なかには、書籍『グルマン 東京・関西フランス料理店ガイド』を共著で執筆なさった、見田盛夫さんと山本益博さんもいらっしゃいました。

見田盛夫さんは北軽井沢に別荘をおもちで、私の料理を評価して下さり日経新聞に記事を書いて下さいました。「軽井沢に良いレストランがある」と。その記事をきっかけに、たくさんのお客様がわざわざ来て下さるようになったのです。皆さん、良いものをいろいろとご存知で実に多くのことを教えていただきました。

林のなかに佇む「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」

森の中に佇む「オーベルジュ・ド・プリマヴェーラ」

──その後、ご自分のお店をオープンなさったのですね。

軽井沢の林のなかに小さなレストランを開きました。おかげさまで、その後施設を少しずつ増設し現在のオーベルジュの形になったのです。

軽井沢の特徴は、初夏から秋にかけてはそれほど苦労することはないのですがそれ以外の季節は雪が多いため素材選びがとても難しいことも挙げられます。しかし季節がいつであっても定期的に来店して下さるお客様は何組もいらっしゃるので、どの時期も同じレベルの料理を出す必要がある。なかなか裏切り行為ができなくて、大変です(笑)。軽井沢は、料理人にとっては特別な場所ですね。

長年に渡って、遠方からわざわざ訪れる常連客も多い

長年にわたり、遠方からはるばる訪れる常連客も多い

──軽井沢には伝統があるとともに、チャレンジできる土壌もあるということですね。

そうですね。ファミリーで、何代にも渡って来店して下さるお客様もいらっしゃいますから。そうすると、「次はこういうものを食べてみたい」とリクエストされることが多いのです。今は、いろいろな国を旅行なさって美味しいものを召し上がっているお客様が多いので、そういう方々にも喜んでいただけるものをご提供したいと思っています。私自身ここ20年ほどは、年に1回フランスに行って新たなものに触れるようにするなど、勉強を続けています。

料理

自然の刺激が、料理に繊細さを与える

──ほかの地域とは明らかに違う、軽井沢ならではの魅力を教えて下さい。

何よりも、自然に刺激されることが多いです。たとえば、掃除ひとつをとっても、季節や気候によってまったく違います。台風が去ったあとは、庭に散乱している木の枝や葉っぱを大がかりで片づけなければいけませんし、雨が降り続くと庭に敷き詰めた小石の間に細かい枯葉が挟まるので、それを除去するために小石をひとつずつ手洗いしたり。

また、料理においては、同じソースを作るにしても夏から秋にかけてはやや酸味があって塩分がきいたものに仕上げ、冬場は濃度を増したものにするなど。いつの時期も、どんなことにも、繊細に対応することが多いですね。もしかしたら、都会から足を運ばれる方はそのような“柔らかい刺激”を軽井沢に求めにいらっしゃるのではないでしょうか。

料理

料理

──“柔らかい刺激”ですか。いい響きですね。

ふだん忘れていることを、ふわりと思い出させてくれる。軽井沢にはそういうパワーがあると思います。私自身は、軽井沢にいると、雑巾がけさえも楽しくなりますよ。緑豊かな自然に囲まれていると、精神的な余裕が出てきて、素直さや謙虚さを取り戻せるので、雑巾がけもまったく苦ではなくなるのです。

それから軽井沢ならではの魅力としては、お店は冬場1ヶ月ほどお休みをいただくので私も従業員もそれまでは一生懸命仕事をして、休みに入ると思いきって海外に遊びに行くなどメリハリのある生活をしています。こういった過ごし方も、軽井沢ならではですね。

手入れが行き届いた、苔が美しい中庭

手入れが行き届いた、苔が美しい中庭

軽井沢で経験するすべてが、なくてはならないもの

──今後も、軽井沢で活動なさっていくのでしょうか。

もちろんです。軽井沢を拠点にして本当に満足していますから。この気持ちは、私だけではなく、従業員ももっていると思います。何といえばいいのでしょう……。軽井沢には捨てきれないものがたくさんあるのです。

たとえば、オフシーズンの12月に、温かいポトフを作って、従業員と一緒に食べる時間もとても幸せを感じます。店内のクリスマスツリーに明かりを灯して、外には雪がちらついていて。それを眺めながらみんなで美味しいものをいただく。そういった空間や、人とのふれあい、料理への探求心なども含めて軽井沢でいただくもの経験するものは、私にとってすべてがなくてはならないものです。

レストランの近くにあるワインセラーには、7000本ものワインが貯蔵されている

レストランの近くにあるワインセラーには、7000本ものワインが貯蔵されている

 

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