おかしいなあ……もうすぐ2023年が終わるそうですよ。
そんなに時間経ちましたっけ?
1歳の人間にとって、1年は全人生と同じ長さ。20歳だと20分の1、50歳だと50分の1。
この感覚は“ジャネーの法則”というらしいですね。
そりゃ毎年早く感じるようになるわけだ。うかうかしていると10年単位で時間が経っていくんだろうと思います。
だからね、やりたいことはさっさと始めるが吉!と思う最近です。
みなさん今年はなにか新しいことを始めましたか?
わたしは今年、なんといっても犬を飼い始めたのが大きい出来事です。
ピノを野山や海で遊ばせたいというモチベーションが爆上がり。二拠点生活しててよかったよ!
ラブラドールレトリバーの齧り&掘りの習性で、ソファは皮をやぶって中の綿やウレタンを掘り、床板や壁を堀り、しゃもじは3本ほど齧って木っ端になりましたが、すべて小さいことに思えます。飼わなきゃ家は無事だろうけど後悔はないね。
「こども3人猫3匹もいるのに、なんで犬も飼いたくなったの?」と聞かれます。
多分わたしは“犬の当事者”になりたかったんですよね。外で犬と出会うと、かわいがり方がイマイチ手馴れていない自分がもどかしくて。わたしはきっと犬について分かっていないんだろうと思っていました。
で、飼ったらやっぱり犬への感度ビンビンになるわけです。猫も引き続き愛好しているので、道で動物とすれ違うたびにいろいろときめくという幸せな脳味噌を手に入れることになりました。
これは「当事者になると感度ビンビン」の法則だな。
となると、二拠点生活の楽しさの理由がちょっと分かってきます。
釣った魚を食べていれば、生臭くないブリの刺身に「血抜きがうまいなあ」と感心し、草刈りをしていると美しく整った土地を見るだけで「ほーーこりゃ立派に管理してるわ」と感動し、野菜をつくれば「さすが農家さんの野菜は出来が違う」と感心する。二拠点生活では自分でやってみることが多いからね。淡々とした暮らしのなかでもいろんなことを感じられちゃう性質になるわけです。生き心地的には、なかなかお得だと思う。
さて、最近わたしのまわりで、ちょっと面白いことが起こっていました。
”みんなで当事者大作戦”です。
南房総市富浦で「よぜむファーム」という農園を経営する山木こずえさんという友人がいます。こずえさんは長らく都心でOL生活を続けたのち、おばあちゃんの家業を継いで2016年に「よぜむファーム」として農家をはじめました。
彼女が育てているびわ、いちじくはちょっと別格な美味しさなんです。1人でやっているから規模は大きくないのですが、とにかくクオリティが高くて、わたしの周りにはよぜむファームのファンが多いです。
そのよぜむファームが今年の10月9日、カフェをオープンさせました。
名前もそのまま「よぜむファームカフェ」。
このカフェ、企画からお店づくりまで本当に多くの人たちが関わっていました。20人くらいはいたんじゃないかな。しかも彼女が率先して声掛けしたわけではなく、何となくわらわらとみんなが寄り集まっていったかんじ。なんなら本人はまわりに引きずられてヒーヒー言っていたくらいです。
集まったのは地元の人、移住の人、二拠点生活の人、都市在住の人、さまざまです。
こずえさんの周りに人が集まる理由は2点。
つくる果物がとても美味しいのと、彼女を心配しているから。
びわやいちじくは旬が短いため、生食用を売る期間は限られています。デリケートな果物なので天候の影響も受けやすく、獣害問題も深刻。収量だって多くはない。それじゃあまりにリスクが高い、ナリワイとして心許ないよ!とおせっかいなファン兼友人たちが以前から(愛をもって)わあわあ言っていました。
とはいえ、こずえさんは日々の農業で忙殺されています。
そこで、意見を言うだけじゃなくて手も動かしちゃったんですね、ファン兼友人たちは。
彼女がかねてよりつくっていたジャムやコンポートなどの加工品(これがまた絶品なの!)を販売用に生産するための加工場が必要で、さらにスイーツを提供するカフェもあったらいい、ということで彼女の家の敷地にあった使われていない古民家を改修してお店をつくる「よぜむファームカフェプロジェクト」が立ち上がることになった次第。
大工仕事はほとんどDIYで、半分プロみたいな素人の仲間たちがどんどんつくっていきました。最近建材の価格高騰が激しいですが、解体現場からもらってきたり、使わないで寝かせてある資材などをみんなでかき集めてきて極力出費を抑えるなど、ほとんど材料費をかけずにつくる工夫を重ねていった模様。
なぜそんなに尽力するかというと、こずえさんに特別な情感を持って動いているだけではなく、南房総界隈のDIY精神は以前から一貫していて「みんなで、タダで、楽しむ!」なんですよね。おそらく。
タダにするための工夫ならいくらでも頭も労力も使い、そのプロセスも楽しむというスタイルです。いわゆる費用対効果を考えたり節約に走るのともちょっと違う気がします。「これ、タダでゲットよ」と見せてくれる時のみんなの嬉し気な顔ったらないですから。
ちなみにわたしは初期メンバーではありません。途中でSNSグループに組み込まれたのをきっかけに、現場の進捗や困りごと情報がどんどん入ってくるようになりました。自分に何ができるかも分からないままに、とにかくこずえさんのカフェの当事者意識が高まっていきました。
南房総に暮らしていない人たちも、できる手伝いはたくさんあります。
設計や造園やウェブデザインなど自分の専門分野のアドバイスをしたり、メニューで悩むこずえさんの相談に乗ったり。何よりお店ができたらお客さんを連れてくるという手伝いができるからね。
現場が最終盤に入ると当事者たちに招集がかかり、みんなでラストスパートの作業をガンガン進めます。いろんなところからいろんな人が集まって、もはやカフェの主が分からないくらい。
もちろん、消防や保健所の許可など一番大変なところはこずえさんが踏ん張って進めていて、間に合わない、間に合わない、と日増しにゲッソリしていくわけです。それをみんなで「がんばれ!」とリアルに応援していきます。
こうした様子を外から見て「ヒトの厚意に頼って」と眉をひそめる人もいるかもしれないですね。
一方わたしは、自分のカフェづくりのプロセスをこんな風にパブリックにひらいてしまえるなんて本当にすごい……と感動していました。
彼女は中心にいながら、とても“弱い中心”なんです。仲間の一人でしかないような存在感で、誰のことも引っ張らず、ただ一緒に頑張っている。だからみんな居心地がいいのかもしれません。
それにしてもさあ、みんな本当に裏心がないの?
とプロジェクトの仲間たちにいじわるな質問をしたこともあります。
すると、いろんな答えが返ってきました。
「自分が試したい仕事を試せる場所なんだよな、自分のお金使わないでも。アハハ」
「なんかみんなが楽しそうだから、ここにいないと損する気がするんですよ」
「いつでもフラフラ行けて、心からくつろげるカフェがこの地域に欲しいからね。パンツ一丁で行っていい?」
「こずえちゃん、控えめすぎるんだもん。こんな美味しいびわやいちじくをつくっておいて!もっと知ってもらわないともったいないじゃない」
思惑はそれぞれ違うね。
そして、とうとう素敵なカフェができました。
これから冬本番。びわもいちじくも来年にむけて静かに育っているところ。
そしてぽかぽかと日の入るこのカフェはいいかんじで、土曜日曜と営業中です。
年末年始の週末に、南房総に足を延ばす方がもしいたら、よぜむファームカフェに寄ってみてね。
よーく見るといろんな素材が使ってあるカフェ空間で(上記の理由でね!)それがなかなか素敵におさまっているから。ちょっとした家具などもすべて「自分が調達してくるよ」「こっちはやっとくよ」とみんなで手分けしてつくったことなど想像しながら楽しんでもらえたらと思います。
農家さんをしながらカフェもやっているというこずえさんの頑張り具合も見どころです。
ちっさなカフェに、ちっさなこずえさんがいます。
裏庭にはホコホコと歩く鶏たちも。
さて、今年も1年たいへんおつかれさまでした!
来年も、そこそこ元気に、皆様とここでお会いできますよう。
どうかよいお年をお迎えください。