暮らし術

「都市と田舎」両方を知る、地域活性化プランナー・堀江康敬さん。

そのお仕事をご紹介いただきながら、都市ではない場所での暮らしについて考える記事・後編をお届けします。前編では、「ブックツーリズム」という新しい旅のスタイルからヒントを得て、「古民家の本アジト」を確保するところまでご紹介いただきました。後編では、いよいよ「どこでも書斎計画」の本格始動です。

前編:本の魅力が旅と地域を面白くする。「どこでも書斎計画」 〜前編

そうだ田舎に蔵書を持ち込み書斎を持とう!

田舎の小さなマチムラを訪ね、里山や懐かしい町並みをそぞろ歩き、お気に入りの一冊に巡り合う! それを片手に古民家の縁側で、ツリーハウスで、雑木林のハンモックで、ゆったりとした読書に浸る。……いいぞいいぞ、ブックツーリズムの具体的なイメージがグイグイと膨らんできました。

そして遂に、プロジェクトのためのアジトに打って付けの古民家の情報が! 早速メンバー全員で、いそいそと出かけて行きました。

里山を望む田園に建つ築九十年の、凜とした古民家。玄関を開けると、踏み固められた黒光りの土間と大きな柱時計が迎えてくれます。家主さんのDIYだという味のある囲炉裏。がっしりとした大黒柱と交差する太い梁が高く広い構造が作り上げ、ゆったりとした空間が広がっています。

土壁や漆喰に若干の経年変化が見られますが、これも古民家の趣と風格。周囲の田園風景にも調和し、日本の伝統家屋の美しさを醸し出しています。それに、歴史を経た古民家を続けて活用することと、今回の“蔵書の再活用”というコンセプトが通ずるところもあります。「探していたのは、ココだ!」その場の全員が歓声を上げました。

本を切っ掛けに地域・田舎の魅力を引き出し、結び付けるブックツーリズムの舞台は決定。プロジェクト名は、行きたい場所を思ってノブを回すと一瞬でワープできる、あの○○えもんの“どこでもドア”に因み「どこでも書斎計画」と名付けました。

家主のMさんや参加・関係者とのオリエンテーションを繰り返し、プロジェクトのコンセプト・目標・実施計画等をまとめた「ワンシート企画」を作成。この一枚を全員に配布し、考えを共有することになります。早速、Mさんから「本番前のウォーミングアップをしたら」とオファーがありました。これはグッド・アイディア!

プロジェクトの基地になる魅力的なアジトで実際に体験してみれば、アイディアも自由に羽ばたいてくれるはずです。

 

本番前に「どこでも書斎」を体験してみるキックオフ・イベント

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やや小雨気味の昼下がりから、キックオフ・イベント開始。参加者の自己紹介後、手作りの囲炉裏、竈(かまど)とピザ窯を囲んでの怒濤の食事会。当日のメンバーが平らげた美味いものは、蔵出し直送のワイン、ワインの搾りかすで育てた鶏、羽釜で炊いた栗御飯、手作り釜で焼いたピッツァ、金槌で叩いて食する氷下魚(こまい)、潮風干しの味・タコ・イカ……。う~、紙面が足りない。

そして二階は、「どこでも書斎」計画のために用意された静かな読書空間です。文芸、経済、歴史、ミステリー、SF、随筆、評論、雑誌等々の様々な分野の本が既にディスプレイされています。
NPOスタッフが運び込んだ「ごんぞ文庫」「勘兵衛文庫」、家主Mさんと地元の読書家ミセスの「薪割り文庫」「RITZ文庫」等々、それぞれの蔵書オーナーたちが、本好きならではの文庫名でいい味を醸し出しています。

 

目指すのは古民家を主役にした「本のリゾート」

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キックオフ・イベントの後日、会議のメンバーが再び集まります。具体的な古民家のアジトを体験したことで、空間から刺激され新しいアイディアが期待できるはずです。

「さて、アジトは確保した。部屋数はあるし、書斎以外にもっと機能を広げたいな」
「自治体の職員が直接相談に乗ってくれる、移住相談窓口は欲しい」
「地元と都会がワイワイ集まれる交流サロンとかどう?」
「当然、僕らのような地元NPOや市民団体の活動拠点にもなる」
「アートも欲しい。地元工芸家向けにアトリエやギャラリーのスペース!」
「年寄りと若者の夜なべ談義とかもいいなぁ」
「オット、若者といえばキュレーター的な役割りで大学生にも協力をお願いしたい」
「食もお忘れなく。地元の食材とか郷土料理なんかも提供できればいいねぇ」

地方の小さなマチに“本”が加わって、街から本好きがフラリとやって来る。浴衣姿で本を読み、森の中で本を遊び、地元の人と酌み交わしながら本を語り合う。そして、繰り返し訪れることで仲間が集い合い、コミュニティができあがる。やがて、ヒトもマチも元気になっていく。「何にもないけど、心地よい時間と本があります」。そういう、本のリゾートになれたらと期待しています。

 

楽しみながら、コミュニティとネットワークを充実させていくこと

ゆっくりと動き出した「どこでも書斎」計画。活動のためのアジトが一つできたことで、現在では「囲炉裏を囲んで料理教室を開きたい」「手持ちの蔵書を提供したい」「空き家になった古い郵便局が使えないか?」といった、様々な手応えが出てきています。

書店が少ないからでしょうか、都会にいるときは読書家だった人でも、田舎では本と少し距離ができてしまうことがあります。しかし古来より、文人・智者は、人里離れた庵や美しい山川といった、自然と近い環境で本を読み、思索してきたことが多かったと聞きます。この「どこでも書斎計画」はまだ始まったばかりですが、「ここを目当てに外から人がやってくる」という当初の狙いに加え、田舎という抜群の読書環境をじゅうぶんに活かすことにも繋がる、ナイスアイディアだと考えています。そんな「田舎の楽しみ方」があっても良いのではないでしょうか。

こうした地域活性化のプロジェクトは、一ヵ所だけの拠点では終了しません。現在の一つの“点”を複数に増やし、それら繋ぎ・広げることで、同じテーマの活性化に取り組みたい地域をネットワークすることが最終目標です。そのためにも、マチ・ムラおこしのプロと地域暮らしのプロである地元住民がコラボレーションする、共感型の手段を探りながら提案していきたいと考えています。

今後も、このような地域コミュニティを舞台にした、ワークショップ型の茅葺きの家づくりや、竹林間伐材を活用した手作りプロダクト(製品)などのプロジェクトを、ご紹介していきます。

 
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※本記事は、堀江康敬氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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