インタビュー

山あり海あり、温泉あり。
全国的に知られるリゾート地・熱海には多くの別荘地、リゾートマンションがあり、リタイア後に移住されている方が大勢います。毎日温泉三昧、ゴルフ三昧もいいのですが、豊かな自然に触れながら、趣味を一緒に楽しめる仲間がいると第2の人生がイキイキしてきそうです。そこで今回は「農ある暮らし」にズーム。遊休農地を借りて農業をしながら仲間たちと交流する「チーム里庭」を訪ねました。

「そうだ、熱海に住もう!」で第2の人生をスタート

「チーム里庭」が活動している畑は「伊豆多賀」駅から車で10分ほど、下多賀・妙楽湯の近くにあります。熱海で畑?と思われるかもしれませんが、山の中腹に残る棚田で畑づくりをしています。取材日は朝から小雨が降ったり止んだり、山は霧がかかるあいにくの天候でしたが、「チーム里庭」の代表・佐藤さんと、会員の桐谷さんにお話を伺うことができました。

「チーム里庭」の代表・佐藤哲夫さん(69歳)。桜や桃の花見、焼き芋、ピザ焼きなど和気あいあいで楽しんでいます。

──お二人ともに首都圏から移住されているとのことですが、熱海に移住された理由は何だったのでしょう?

佐藤さん:現役の頃から、リタイアしたらのんびり好きなことができるところに移住したいと思っていました。以前の住まいは横浜の駅から徒歩圏のマンション。熱海は新幹線で1時間足らずと近いにも関わらず、気候が温暖。ゴルフや釣り、畑などやりたいことができるし、温泉もあるということで、9年前、熱海の駅近くのリゾートマンションを購入して引越しました。中古ですが戸別に温泉がついているのが気に入って、リフォームして住んでいます。

「熱海の自然が好き。季節の移ろいとか、吹く風とか、そういうことに鈍感だったことに気づかされました」と桐谷さん

桐谷さん:13年前、熱海に友人と遊びに来たとき、知り合いから「熱海にいいマンションがあるから見てみないか」と言われ、興味半分で見学に行ったんです。熱海で初めて建てられたリゾートマンションで、眺めが良くてとても気に入りました。ちょうど子どもが独立するので、わたしは自然環境のいいところで暮らしたいという気持ちもあったので、帰りの新幹線のなかで、「そうだ、熱海に住もう!」って決心しちゃいました。最初は、気分が向いたときに行ったり来たりしていたのですが、いつのまにか来たっきり。熱海の自然が優しいんです。山があり、海もあり、空も広い。心がおだやかになるんです。今は熱海にしっかり根を下ろしています。

──移住の場合、気になるのは都会の家。今まで住んでいた家をどうされたのでしょう?

佐藤さん:横浜のマンションは賃貸にしています。家賃収入も入りますから。

桐谷さん:今まで住んでいた浦和の一戸建てには、息子夫婦が住んでいます。

 

熱海でやりたいことのひとつが「畑」でした

──熱海に来て佐藤さんは9年、桐谷さんは13年ということは、熱海移住のベテランと言っていいですね。でも移住当初は土地勘がなく、知り合いも少なかったと思います。どうしてこの「チーム里庭」を知ったのですか?

妙楽湯近くの農園。もともと遊休農地であったところを「チーム里庭」のメンバーが耕作。無農薬で野菜を育てている

佐藤さん:9年前に熱海に引越してきて、畑をやりたいと思い地元の農協に貸農園はないかと聞きに行きましたが、そういう紹介はやっていないということで、残念ながら教えてもらえませんでした。やりたいけど、どこで、どうやっていいのかわからない状態。そんなとき、熱海の移住者に向けて市が主催する「ミカン狩り」のイベントがあり、参加してみました。30~40人くらい参加者がいて、自分と同じようなリタイア組が大勢いました。みんなどうしたらいいかわからない、同じような立場。その「ミカン狩り」はNPO法人atamistaの代表・市来広一郎さん*が仲間3人と一緒に熱海市を巻き込んで企画したイベントでした。市来さんは遊休農地をなんとかしたいと思っていた畑の所有者山本さん(妙楽湯のオーナーでもあります)やその同級生とともに、「チーム里庭」をつくって、遊休農地再生に向けて活動していたので、そこに参加したわけです。当初会員は5、6人でしたね。atamistaの若い人が代表をしていたのですが、仕事もあってなかなか来れない。そこで常時参加できる人の中からということで、私が代表に選ばれました。農作業は全く経験がなかったのですが、もう9年目です。

* 熱海の街づくりはコミュニティから 〜NPO法人 atamista代表 市来広一郎さんインタビュー

桐谷さん:わたしも「ミカン狩り」のイベントがきっかけです。熱海を知りたいと思っていたので、参加したら、そのミカン畑がとても眺めのいいところにあって、素晴らしかった。参加者には熱海の移住者だけではなく、熱海以外の人、東京からわざわざ来ている人が多かったのにはびっくりしました。いずれは熱海に来て、こういう生活がしたいと思って参加されたようです。イベントはいい刺激になりました。そのイベントで「チーム里庭」を知りました。やりたい人が集まって、畑仕事をやっています。吹く風や、季節の移ろいを感じることができて気に入って、ずっと続けています。

──イベント参加は、同じような環境の人たちと知り合うのにいい機会になるようですね。「チーム里庭」は、1年を通してどんな活動をしていますか?

はつか大根の芽を間引きしながら草取りをする

サラダにするとおいしいスナップえんどうを収穫

佐藤さん:「チーム里庭」は3カ所に農地を借りており、会員は賛助会員を含めて30名くらい。実際、作業に参加する人は半分くらいですが、天気が良ければ毎週木曜日の午前中、畑仕事をします。借りている農地には橙(だいだい)の木やお茶の木もあり、収穫の時期にあわせて橙マーマレードづくり(2月)や茶つみ(5月)もしています。収穫物は各自が購入して、その代金をタネや苗、耕運機の燃料代にあてています。熱海銀座通り商店街などで開催している「あたみマルシェ」に焼き芋やマーマレードを出店することもあります。

桐谷さん:毎週、収穫物があるわけではないのですが、作業が終わったらみんなでお茶をのんでのんびりしています。畑には手作りのオーブンがあるのでピザやサツマイモを焼くんですよ。収穫した野菜をそのまま食べたり、ゆでたり。労働のあとの採れたて野菜とおしゃべりが楽しみです。

──農業講座や小学生の稲作体験も実施されていますね?

佐藤さん:「チーム里庭」は、高齢化や後継者がいなくなった遊休農地を少しでも減らすというのが本来の目的。社会貢献を兼ねた体験農園もはじめています。
例えば、地元の多賀小学校5年生を対象としたコメ作り体験というのがあって田植えからスタート、稲刈り、脱穀と米粒ができるまでの体験学習をサポートしています。熱海で稲作できる平らな田んぼはここしかないんです。収穫は1俵に足りないくらいですが、学校給食に提供され、「チーム里庭」のメンバーもおにぎりを作ってもらって味見をさせてもらっています。

桐谷さん:田植えができるようにするための土おこし、しろかきなどの下準備は結構大変ですが、子どもたちの笑顔が元気のみなもと。子どもたちも、どうやってお米ができるのかが、体を使ってわかるので食育にもつながっていると思います。

佐藤さん:大人を対象にしているのが年に2回の農業市民講座。「MOA自然農法文化事業団」から講師を招いて、実際に野菜作りを体験します。参加者は毎回12、3名くらい。自分が作った野菜を収穫。おいしくて安全な野菜を作ることで、農業がいかに楽しいかを知ってもらいたいです。今年も秋に家庭菜園講座を予定しています。野菜を作ってみて、畑を借りてやりたくなった人には畑も紹介しますよ。

農業市民講座で耕作中の畑

 

温暖な熱海に来て、人と交流して健康寿命をのばしましょう

──最後に、熱海移住を考えている人にアドバイスをお願いします。

佐藤さん:1週間に1度の農作業では農家の人が作るような立派なものは作れないけど、体を動かすことがいいんです。常時来ている人は「ここに来ると健康になる!」と言っています。自然と接することがストレス解消につながるのかもしれません。外に出て、仲間と交わって健康寿命をのばしてほしいですね。

桐谷さん:熱海が大好き。大きなデパートや映画館はない。不便なところもあるけど、ここで農作業をしていると物欲がなくなったわね。自然に感謝して暮らしています。
でも順応できないで帰る人もいるんですよ。熱海にも病院はあるのだけど、かかりつけの東京の病院に行くのが不便とか、高齢になって交通手段がなくなったとか、理由はいろいろ。移住する場合は10年後のことも考えておくことが大事。田舎暮らしを正しく判断して、何をやりたいか目的を持って来るのがいいと思います。

2015年に実施した家庭菜園講座の最終回は楽しい収穫祭。収穫の後、参加者と「チーム里庭」のメンバーで記念撮影

取材を終える頃に雨が上がり、春菊の柔らかい葉の部分やスナップえんどうを収穫。
体を動かして、気持ちのいい汗をかいた後は、薪でお湯を沸かしてお茶をいただきました。佐藤さんと桐谷さんが話してくれた内容は納得のいくことばかりでした。リタイアして第2のステージをはじめたら、そこを起点にゼロからスタート。目的を持って、積極的に外に出て行くと新しい暮らしが生まれそうです。
「今度はピザを焼くときにいらっしゃい」、「茶摘みもあるよ」。熱海移住に心がなびく取材となりました。

※本記事は、平野ゆかり氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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