暮らし術

都市だけではない、新しいライフスタイルを提案する堀江康敬さんの連載をお届けします。

今回のテーマは、ITインフラの発達に伴い、急速に浸透しつつあるライフスタイル、「マルチハビテーション」について。

こんにちは、地域活性化プランナーの堀江です。

交通インフラが整備・推進されたことで移動時間の短縮や、モバイル機器の浸透で、インターネットによるコミュニケーションも多様化され、複数の生活拠点を持って暮らす人たちが増えてきました。今回は、街とリゾート暮らしを両立させる暮らし方に向いている「マルチハビテーション」の考え方についてのススメです。

 

話題の暮らし方「マルチハビテーション」とは

マルチハビテーション(以下マルハビ)とは、2つ以上の生活拠点を持つことで「multi(多くの)・habitation(住居)」を組み合わせた造語で、インターネットでもWebサイトやブログ等を検索すると、「二地域居住」「交流居住」「往復生活」「週末田舎(里山)暮らし」「週末別荘ライフ」等といった関連キーワードが登場してきています。マルハビの需要は国交省の予想でも、2030年には1,000万人を超えると予想されています。

実は私も、このマルハビの実践者でした。田舎へ引っ越した当時は、年間通しての40数回の都市部への出張。月平均、3回強は出かけていたことになりますね。ケーブルや無線でつなぐインターネットならぬ、自分の足と鉄路でつなぐ「スニーカーネット」と勝手に名付けて楽しんでいました。

片道2時間弱の列車内が、行きは「オフィス」〜帰りは「居酒屋」の、出張エキスプレスに変身します。 往路は会議用の資料の整理や段取り、街で購入したい本のリストアップ、友人との待ち合せ時間と場所などのチェックをします 。揺れる車内が私のオフィスとなるわけですね。

初日の会議が終わったら、翌日の午後までフリータイムです。田舎では体験できない街ならではの楽しみを味わい尽くすのだ!と、「おのぼりさん」に変身。せっせと美術館へ、図書館と本屋へ、映画館へ、アップルストアにも寄らなくっちゃ……と。

ところがです。二日目の午後になると望郷の念に駆られてくるんですね。いそいそとチケットを買い、缶ビール&焼ちくわを両手に車内に乗り込む。勝手に自分にボーナスです。列車が動き出すまで我慢して、発車オーライでプシュッ!と。110分間だけの居酒屋の開店です。

 

街と田舎を行ったり来たりして「いいとこ取り」する、よくばり生活

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豊かな自然環境、安い物価と豊かな住環境、ゆったりと流れる時間と、とかく田舎暮らしにはメリットばかり取上げられがちですが、デメリットもあります。そう、自然界に働きかけて直接に富を取得する「第一次産業」が主な職場になってしまいます。
田舎だからこそ農業だ!林業だ!漁業だ!とチャレンジするのも一つの選択ですが、ちょっとリスクが大きい。100%の田舎暮らしを始める前に、あなたが都会の生活で培ってきたスキルを活用するのがクレバーなやり方。

例えば、
ウィークデーには情報が収集しやすい都市で仕事に集中し、ウィークエンドには自然の中でゆったりとした時間を満喫する。

両方の拠点を使いこなすことで、高度な都市機能と地方の豊かな住環境を同時に享受する。そして、仕事仲間と地方(地元)の人々との交流も楽しみながら生活しようという、新しい田舎暮らしの考え方ですね。

 

新天地でゼロからスタートだ!という気合は捨てる

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一般に、マルハビには以下のようなメリットがあると指摘されています。

・ 都市生活での確保が難しい、プライベートな書斎やアトリエ、庭や畑などを実現しやすい。
・ 都市と田舎を舞台にメリハリのある生活を送ることで、暮らしの「質」を高めることができる。
・ いきなり100%の田舎暮らしと異なり、リアルな田舎暮らしの予行演習にもなる。
・ 第二の生活ベースを持つことで新たなコミュニティが広がり、さらに行動範囲が広くなる。

*出典:国土交通省 「平成17年 国土計画推進局報告書」

「せっかくの新天地。都会のしがらみはキッパリ捨て、第二の故郷に全力投球だ!」といった、考えは捨てましょう。セカンドライフで歓迎されるのは、街の情報、経験とノウハウなんですね。プラスあなたが持つ人脈。これらを総動員してやっと、地元の人が興味を持ってくれるんですから。

 

ライフスタイルは「ハード」から「ハート」へ進化中

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都市部でのハードな生活リズムを田舎でリセットする。両方を行き来することで、田舎ののどかさと都会の便利さの両方を味わう。早朝ウォーキング!それから通勤する。休日に田舎での子育てを実践する。ご近所から猪肉の差入れ!街の友人を招いてジビエ・パーティ……

仕事中心から、家族や趣味に生きがいを求めるライフスタイルへの変化といった社会状況の中、マルハビは単なる別荘やセカンドハウス(ハード)の所有ではなく、より豊かな暮らしを実現できる新しいコンセプト(ハート)として注目されているようです。

生活者の視点で調査研究を行っているシンクタンクが、マルチハビテーションをスタイル別にピックアップしてくれています。ご参考に。

生活拡張型

近隣の賃貸住宅などを確保することで、一つの住宅で不十分な広さやプライベート空間を拡張する。仕事の集中作業、趣味のための専用、自分のためだけのリラクゼーション等の空間をもつこと。

都市接触型

ビジネスや文化、レジャー、人的交流などの都市要素へアクセスするための拠点。通勤用、都市へのコンタクトを容易にする中継点、仕事仲間が集う交流基地。

町外れ生活型

余暇利用を主目的とするのではなく、その住宅や周辺地域を生活の場として居住。リタイア後住居を事前確保する付加型や、最初から本拠地とするホーム型等のライフステージ。

田園満喫型

自然環境、レジャー施設や観光資源を楽しんだり、地域の人々と交流するなど、遊びを楽しむ拠点。日常ニーズは都市、余暇ニーズは徹底してリゾートライフ等で過ごす。

*出典:経済企画庁総合計画局作成(居住パターンの多様化概念図)/ 経済審議会2010年委員会国民生活小委員会報告より

ちなみに、現在の私のマルハビスタイルは「町外れ生活型」と言って良いかもしれません。「路地裏ハウス」と名付けた築40年超の平屋と電車で20分程度の都市部を、行ったり来たりして楽しんでいます。

最近では、都市と地方を行ったり来たりするところから、完全移住のリスクを軽減するための「参勤交代」というワードも浮上。異なった環境での暮らしや人々との交流は、一箇所のみで暮らしている時には気付かなかった新しい発見や出会いがあり、きっと今までとは違う価値観が生まれてくるはずです。

一挙に街を離れるのは不安だと、思い切れずにいる人。都市部で培ったスキルで地域を元気にしたい人。まずはマルハビからスタートしてみましょう!

 

閑話休題:街のヒントを田舎で醸成する、マルハビ生活に踏み切ったM君の話。

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関西で友人2人で広告会社を営んでいたM君。数年前、家庭の事情で故郷の田舎に戻って来ました。家業を手伝いながら、のんびりと仕事を探していたところ、地方都市で働いている友人から「ブレーンとして企画会議に出席して欲しい」とのお呼びがかかりました。

暮らすならやっぱり田舎、しかし仕事は都市にしかない…… まだまだ広告の仕事に未練もあったM君は快諾。それから彼のマルハビ生活が始まりました。

「車で15分も走れば岩魚が釣れるんです。もうここの自然環境からは離れられない。しかし田舎の職場は限られてるし、特に広告関連の仕事はゼロ!都市部のマンションの家賃を友人の会社が一部負担してくれるというので、思い切って決心したんです。」

「でも住居が二つあるということは、お気に入りも2つ必要だということに気が付いたんです。本、CD、クロスバイク、スニーカー、タブレット等々、欲しい時に手元に無いとついつい同じものを買ってしまう。今のところ、マルハビのデメリットといえばこれぐらいかな」

広告の仕事をするM君にとって、都会は様々な刺激を受けてヒントに出会える場所であり、田舎の静かな環境はプランをじっくりと醸成させる場所になっているようです。そして、都市部への往路は会議用の書類の整理、田舎への復路は缶ビール&読書タイムに。片道2時間半の新幹線もぜ〜んぜん苦にならないとか。

移動時間を、都会のビジネスと田舎の生活とのスイッチとして上手に使う。これも、マルハビのスマートなメリットではないでしょうか。

 
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※本記事は、堀江康敬氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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