こんにちは、アトリエ137の鈴木です。今回ご紹介するのは贅沢に土地を使い、ゆったりとした生活空間を作ることができる、平屋の別荘です。都会ではなかなか建てることが難しいですし、年齢を重ねても楽しめる平屋は、やっぱり魅力的です。前回の「眺望抜群!傾斜地の家」に続き、設計者の視点で、平屋の家を建てる際に考えておきたいポイントをまとめました。
平屋のよいところ、気にすべき点
あらためて平屋のよいところをあげると、以下のようになります。
- 階段や柱、壁など、上階の荷重を受ける必要がないため、大きな開口部(窓面)がとりやすい
- 強風や地震などに強い
- 階段がないため、年齢を重ねても暮らしやすい
- 外の自然(地面)と近い
注意点としては、軽井沢など湿度の高い地域では、基礎(床)の高さへの配慮が必要です。
これは平屋に限ったことではありませんが、地面との距離が近い1階部分への配慮は大切です。
「山が好き!」「海が好き!」とお好みはあると思いますが、平屋を建てたいなら、海よりも山のほうが、大きな土地も見つかりやすいかもしれません。海沿いはがけ地が多いエリアもあり、傾斜地では、同じ平屋でも基礎や造成へのコスト負担が大きくなりますので、そのあたりも考慮しておく必要があります。
平屋のプロポーションにしっくりくる軒先の深いデザイン
自然環境の厳しい山や森のなかで、軒をしっかり出したほうが、雨や雪にさらされる部分も少なくなり、外壁にとっても傷みにくい、やさしいデザインとなります。ただ「軒先を深く」は、敷地に余裕がないとできないデザインです。
軒先が深いデザインの特徴は、陰影にあると言ってよいかもしれません。光と影、この陰影の深さが建物の表情を豊かなものにしてくれます。軒先から落ちる雨だれも情緒があり、とてもよいものです。
特に自然のなかに建つ別荘は、樋(とい)をつけないことが多く(*注)、軒先のデザインの自由度も高くなります。ぜひ建物を見るときに、軒先のディテールにも目を向けてみてください。軒先をシャープに薄く見せるのか、しっかり見せるかで、建物の印象も変わってきます。
*注:落葉した葉が詰まることや、寒冷地では樋に残った水が凍ってしまうことが原因でこわれやすいため、ほとんどのお宅で樋をつけていません。
屋根のカタチで個性を感じる平屋の例
屋根のカタチもさまざま。「寄棟(よせむね)」「切妻(きりづま)」「片流れ」……。それぞれの表情があり、平屋の場合は特に、屋根のカタチが建物のデザインを決めると言ってもよいかもしれません。建築家の造形力・腕の見せどころです。以下に例を挙げてみました。
事例:(寄棟屋根)千葉県君津市Sさんの家
深い軒と薄くシャープな軒先のデザイン、真っすぐにレイアウトされたシンプルな空間が魅力です。
別荘では外壁をダークブラウンの板張りにされる方が多いですが、グレイッシュな感じも透明感があってきれいですし、景観にもよくなじみます。
インナーテラスの前にはもうひとつのテラス。円形のファイヤーピットが外観の印象にも一役買ってくれています。
事例:(切妻屋根)長野県軽井沢Sさんの家
左右非対象の切妻屋根にすることで、写真のようにパースが利いたアングルでは、対称形の切妻に見え、より軒先の深い印象を与えてくれます。
事例:(片流れ屋根)栃木県那須Fさんの家
屋根はシンプルな片流れですが、道路側は格子と軒先の深いオールドスタイル、しっかりした軒先の事例です。庭側は軒のないモダンな箱型のデザインと、表情を変えています。こうした造形を楽しめるのも、平面的の大きくなる平屋ならではかもしれません。格子は視線を遮りながら、室内に光を取り込み、また影を楽しませてくれます。
シンプルでモダンな平屋の例
白い外壁。黒い外壁。シカク。サンカク。人の好みは十人十色。シンプルでモダンだからと言って、白いハコでなくてもよいのです。
事例:長野県軽井沢Cさんの家
墨色の外壁と非対称形の屋根が特徴です。外壁もまっすぐ垂直におろすのでなく、屋根勾配に合わせてナナメにすることで印象も変わってきます。
スキップフロア・L型プランの平屋の例
山のなかの大きな敷地では一見すると平坦の土地でも、高低差があるものです。そんなときは床の高さをスキップさせて、目線に変化をもたせるのも楽しいものです。また、L字型のプランにすると、場所によって見える景色が変わってきますし、一方向からではわからない自然の移ろいを感じることができるかもしれません。
事例:長野県軽井沢Hさんの家
敷地の高いほうから低いほうへアクセスしていきます。天井面をフラットにすることで、LDKの天井高さ3mを実現―― 平屋にはあまり見かけない空間が生まれています。
事例:栃木県那須 Hさんの家
箱型にデザインすることで、レンガの外壁でもモダンな印象をもたせています。平屋のプロポーションをととのえるため、道路側の低い側にも土を入れています。そのため、床面より高い部分にも少し土をかぶせることになり、基礎のRC造部分の高さなどを配慮しています。
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平屋はより自然を身近に感じることのできる贅沢な空間です。
建物をまっすぐつくり、水平方向ののびやかさを楽しむのもよいですし、L字や雁行させて自分の家(とそれを取り巻く自然)が見えるのも楽しいものです。また、敷地に高低差があれば、スキップフロアで高低差を活かしながら、水平方向だけでない視線の変化を楽しむ空間にしてみてはいがでしょうか!
ぜひ、自分がその場所で過ごす時間―― イメージを膨らませてみてください。
写真提供:アトリエ137 一級建築士事務所