初めまして。アトリエ137の鈴木 宏幸と申します。
私はこれまで、50件ほどの住宅の設計に携わらせていただきました。建て主の方の思いを伺い、それを敷地や周辺の環境などの諸条件と合わせながら、かたちにしていく。できあがった住まいを見て、喜んでいただくこと、何より暮らしを楽しんでいただけることは、私にとってかけがえのない喜びです。
別荘がある生活を考える際に、さまざまなシチュエーション別に、どんなことを考えるとよいか、私なりの考えをまとめてみました。実例を挙げながらご紹介していきます。理想の別荘づくりのイメージを膨らませていただければと思います。まずは別荘地にはよくある「傾斜地」について。
傾斜地のよいところ、気にすべき点
「とにかく眺めのよいところ!」とか、「窓辺に腰をかけるのが好き」とか、そんな方には、傾斜地がおすすめです。眺望がよい条件が揃うことが多いからです。
ただ、傾斜地では高低差を考慮したプランニングや断面計画が必要で、構造解析なども平地に比べ難しくなりますので、注意が必要です。
特に建設コストには相応の覚悟が必要ですので、ご購入前に専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
また、軽井沢などの別荘地には景観条例があり、敷地との境界からの後退距離や高さ、階数などの制限がある地域では、そのあたりにも配慮する必要があります。
半地下となる部分は鉄筋コンクリート造(以下、RC造)で計画されることが多く、その後増改築するのは大変ですので、年齢を重ねたときのことを考えて、家庭用エレベーターを設置できるスペースを考慮した計画をしておくことも大切かもしれません。
アクセスは上からか? 下からか?
傾斜地の最大のポイントは、建物までのアクセスです。クルマを止める場所があったとして、そこから上に建物があるか、あるいは下側にあるか、ということです。
もちろん状況によりますが、一般的には、下側に建物を建てる=上からアクセスできるケースの方が、つくりやすい場合が多いです。アプローチが簡単ですし、工事も最小限の造成で済みます。
逆に下からアクセスする場合は、建物までのアプローチをつくる必要があります。資材の搬入など、工事が大変そうだということは容易に想像できるのでは、と思います。また、建て主の方も歳を重ねていけば、そこまで上がっていくことも、だんだんしんどくなってきます。
……というわけで、まずはこの「上か下か問題」を考えるとよいと思います。具体的にどうするかは、実例を見ながらご説明します。
平屋のように見え、でも立体的な空間を感じる家の例
上からアクセスできると、道路側からはまるで平屋のような印象をつくることができます。つまり、建物を上に延ばさず、下を使うことで、建物の高さもおさえることができ、道行くひとへの景観もよいものとなります。
事例:山梨県甲府 Iさんの家
2階を木造、1階、地下1階をRC造としています。2階に玄関やご両親のスペース、浴室、屋上庭園を設け、1階、地下1階を子世帯のスペースとしています。
傾斜地の眺めは最高ですが、地面との距離感が出てしまいますので、屋上庭園で補うのも一つの方法です。
事例:栃木県日光 Sさんの家
2階を木造、1階をRC造としています。上記の甲府Iさんの家では基礎となる地下1階(半地下)まで室内に利用しています。Sさんの家ではその半地下を基礎としてボイラーなどの設備スペースに利用するだけにとどめています。別荘のため、閉め切りになることも多く、また湿度の高い地域でしたので、結露などによるカビの発生も心配されたためです。
地下空間を利用する場合は換気設備などにも十分配慮する必要があります。
造成は最小限にしつつ、地形を活かす家の例
コストをおさえるために、基礎をできるだけ小さくして、造成を最小限に抑えるのもひとつの方法です。
事例:長野県軽井沢 Fさんの家
足元の基礎を絞り、大きく張り出したスラブ(ここでは、垂直の荷重を受け止める板もしくは台)に木の家をのせています。敷地の一番高いところは尾根のため、少し平らのところがあり、傾斜地にはない接地感を楽しむこともできます。
室内も基礎の外側に大きく張り出されることで、より浮いている感じが出て、傾斜地ならではの空間体験ができます。窓辺のソファに腰を掛けて、景色を楽しむのが至福のひとときとなるでしょう。
登りを「楽しみ」に替える家の例
建物までのアプローチもひとつの楽しみとなります。というより、楽しみに変えるといったところでしょうか。
事例:静岡県熱海・伊豆山 Yさんの家
「下からアプローチ」の典型的な例です。地下1階をRC造、1階、2階を木造としています。建物までのアクセスは高低差などの状況により、そのルートを考える必要があります。Yさんの家では斜めにアプローチした後、一直線に建物までの階段をつくっています。「あそこまで上がったら、どんな景色が見えるんだろう」と期待が膨らめば、階段を上がっていくのも楽しいかもしれません。
事例:静岡県熱海 Oさんの家
下からのアプローチの醍醐味は何と言っても、眺めたいほうを背中にして上がっていくことです。そして建物に入っても、すぐにその眺望は手に入りません。階段を一段一段上がっていく道程がとても大切になってきます。Oさんの家では遠くの景色ではなく、そこにある木々を眺めながら、その期待を膨らませていきます。
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目の前に何も建たない、建ってもほとんど目に入らない――。傾斜地ならではの眺望は何にも代えがたいものです。
そんな敷地と出会えたら、うれしいですね。
次回は、平屋の魅力をご紹介します。
写真提供:アトリエ137 一級建築士事務所