もう大前提としてご承知いただいていると思いますが、わたしは稀代のめんどくさがり屋です。
できるだけ楽をして、できるだけ美味しいものにありつきたいと心から願いながら日々を過ごしています。
だから当然、「魚をまるごと1匹調達する」といった行為はあまり好みません。
だってめんどくさいんだもん!笑。
まあ、たとえまるまる1匹買っても魚コーナーのお兄ちゃんに「すいませーん3枚におろしてください」と言えばやってくれるので(アラもつけてくれるし)、大抵は自分で捌くのは回避できますけどね。
ところが先日、珍しくふらっと心が揺れました。
いつもは金曜の夜中に南房総に行き、日曜の夜中に帰る、というライフスタイルなのですが、その日は珍しく日中に帰ることになり、寄り道でもしようかと海沿いの国道を走っていました。で、鋸南勝山のあたりを走りながら「そういえばこのへん、魚屋さんがいろいろあるって聞いたな」とふと思い出した次第。
漁港付近に行けば何かしらお店があるだろう、と海際へと続く道を入り、うにょうにょと車を走らせていると、何やら魚を売っていそうな場所に突き当たりました。
「活きのいい魚 直売所」。
直売所とあるけど、魚が並んでいる気配がありません。
ひとまず聞いてみるか、と車を降り、わしわし荷卸しをしていたお兄さんに「あの~、ここ、お魚売ってるとこですか?」と何だかアホっぽい質問をしながらそっと中を覗くと、あーーー。
これはどう考えても小売りじゃないや!
「すいません違いますね」とそそくさと退散しようとすると、「いやいや、売ってるから!見てっていいから!」と引き止められました。
生け簀の魚を、買えるの?
「そう。養殖している魚を売ってるんですよ。この中にいるのはタイで、外はシマアジ」
なるほどここは、勝山港沖の生け簀で育てたものを運んできて売るという、養殖場の直営店なのですね。勝山の漁業協同組合は、「獲る漁業から育てる漁業へ」と掲げ、養殖業に力を入れているそうなんです。
泳いでいるやつから選ぶなんてドキドキですが、その前にシマアジというワードに引っかかりました。いつも魚屋さんで、遠巻きに眺めて「…たかっ」とつぶやき離れるアレです。
「ちなみに、お、おいくらですか?」
「えーとキロ1800円。1匹1.0~1.2キロくらいだね」
それはひょっとしてわりと安いんでは?
いつもあまりに遠巻きに眺めすぎているせいで相場が分からないながらも、直感的にそう思ったわたしは、計算するより先にシマアジ食べたさで「では小ぶりなやつを1匹」と口が勝手にオーダーしてしまいました!
「はいよ。水が撥ねるからちょっと離れてて」
お兄さん、さっそく生け簀のシマアジをつかまえます。
……つかまえる?手で?
すごくツヤのいいやつがビチビチしながら運ばれ、ボキッと首に包丁を入れ、あっという間に血抜きされ、氷の敷かれた箱の中に入れられて、3分程度で見事な商品になっちまった。一緒に見ていたこどもたちは、血抜きで真っ赤に染まった水がどうどうと流れる様子を見ながら固まっていましたが、箱に入った魚の上にぺろんとセロハンがかぶせられると「美味しそうになった!」と表情が変わりました。罪悪感が弱まるのね。笑。
うわー。シマアジ嬉しい。
いつもは保田のスーパーおどやですらシマアジには手をださなかったのに、今日は丸ごと1匹!だいぶテンションがあがります。
お兄さんから「大きいからさばくの大変よ?」と言われても「ダイジョブダイジョブー」と軽やかに答える始末。ここでは三枚におろしてくれないことはすぐ察しましたが仕方ない。(あくまでも捌きたいわけではない。)
さーて美味しいやつが手に入ったし、帰ろうかーと衝撃の活魚センターを離れて、満足しながら勝山の商店街をとろとろ走ります。
すると、なんだ、生け簀ではなく普通に魚の並んでいる魚屋さんもあるではないか!
なりゆきで敷居の高いところで買っちゃった後に気づく……笑。
そしてもう必要ないのにちょっとのぞく。
なんとも魅力的なラインナップ。名前分からない魚がぞろぞろぞろ。
「すいませーん、このしましまのやつ、なんですか?」
「オキアジ。すごく美味しいですよ」
今日のわたしはちょっとやばい。口が勝手に注文を入れてしまう。
「じゃこれ1匹。あとカマス3匹ください」
だって、オキアジって知りませんから。知らないのに美味しいって、食べてみたいじゃないですか。今晩の夕食はシマアジ大会だ!と思っていた頭をぶるぶる振って、えーと今日はシマアジ半尾とオキアジの刺身、明日はシマアジの残りとカマスを焼き魚。と計画を立て直します。
ないない、問題ない。2日あればペロリ。
中途半端な台所仕事はめんどくさいだけだけど、こんなに食べるのが楽しみな魚が入れば頑張る気にもなろうもんよ!と、さばかなきゃならないプレッシャーをやる気に変えようと自分を鼓舞します。
で、帰ってからちゃんと、がんばりましたよ!
こーんなでっかいのをさばくの、いつぶりだろう。
もうね、包丁を入れて驚きました。
脂のノリがすごい!
これは絶対、口に入れたらとろ~っと溶けるよなあと容易に想像ができます。アジといってもシマアジは別格、別物なのだと触感だけでも分かる程度。さっきまで生きていただけあって、しっかり身がしまっているので刃が入れやすく、大きいわりにはスムーズにはこびます。
かなりの素人なので、細かいところは容赦していただきたいんですが、なんとかかんとかお刺身らしくなりました。半尾だけでも充分すぎる量!
それから、勢いで買ってしまったオキアジ。
調べると、関東ではたいへん珍しい魚のようです。あまりカッコいい魚ではないけれど、見た目に反して味はすばらしいとのこと。
シマアジの後ですから感覚が狂っていますが、これも脂がのってます。すーっと透き通っていて美しい身です。
食してみての感想はわざわざ書くまでもありませんけどね。美味しいって言うだけだから。笑。
シマアジは、手で味わったとろ~っとした予感は的中。旨味がすごく強くて感激でした。ほんのちょっぴりのお刺身をいい器に入れて「シマアジ 1舟1000円」と出してもおかしくないよねえという高級感。
オキアジは脂がのっているのが分かるのに食感がさっぱりしていて、何より、甘い!甘くておいしい!流通していない魚でだということもあり、ありがたさがぐっと増します。
「わたしは脂っぽい魚はダメなの」と普段はハマチやトロを好まない義母にはあえて前情報を入れずに出したところ、「これはなに?とっても美味しいじゃない?」とどちらもたいへん気に入ってたくさん食べていました。多分ハマチより脂のってるけど。笑。
そんなこんなで魚に恵まれた南房総を味わっているわけですが、最近息子のニイニが釣り熱再燃で、小学生ぶりに時間があれば釣りに行くようになり、我が家は昨今、ますます魚食頻度が加速しています。
といっても彼の釣果はまったく予測不能で、不安定供給そのものなのであてにしていません。が、ごくたまに、おかずを釣ってくることもあるんですね。
先日は、館山の築港堤防に夕まづめに行きまして。
どうせまたボウズだろうと、帰りを待たずにお鍋の支度をしていたところ、意気揚々と帰ってきたニイニ。
「カサゴ。2匹。煮つけにするから」と。
どんなもんだ?
すごいねえ、氷漬けにされてもまだぱくぱく動いてる。強い魚です。
カサゴは、菜箸を使って内臓を抜き取る「ツボ抜き」という処理をするんですが、わたしは何を隠そうトドメをさすという行為が本当に苦手なので(生きもの好きは生きている状態専門です、、チキンですいません)ニイニに任せました。
中学時代は、それまでの趣味……いろいろあるけど釣り、昆虫、植物、熱帯魚などからほとんど手を引いて思春期ワールドで暮らしていたニイニですが、最近ひょこっと趣味が復活し、ルアーをつくったり水草水槽をつくりこんだりと、本性が戻ってきている次第。
で、台所に立ったのもずいぶん久しぶりだったのですが、小学生の頃に鍛えた腕はあまり鈍っておらず、久しぶりなのにぱぱぱっと煮付けをつくってくれました。
お世辞抜きに美味しかったです。とても味の濃い白身で。
トゲが痛いからさばくのは大変だけど、味はいい魚ですね。
できれば2匹じゃなくて最低5~6匹釣ってくれたら助かるんだけど。
それから台所じゅうに飛び散った鱗をふき取って片付けてくれたら助かるんだけど!
しかし、南房総に居を構えていると、どんどん怠けにくい暮らしになるなあ。
魚を捌くのはめんどくさいけど、ちょっと楽しい気がしてきたからやっかいです。やることが増えちゃうよ。
次の誕生日にはいい刺身包丁でも買うかな……