暮らし術

明けました!2017年。
今年もよろしくお願いいたします。

みなさん、どんな年末年始でしたか?
SNSでは、いろんな人のいろんな過ごし方が流れていました。
お正月がいいなーと思うのは、基本的に世の中全体が休んでいること。いつもすごく忙しそうな仕事人間も、家族と過ごしていたり、里帰りしたり、ゆっくりお節をつついたり。
わたしもお節とお餅を3日間食べ続け、きんとんもなますも来年までバイバイ~というかんじです。

それでも、ちょっと街に出るとコンビニは間違いなく24時間営業中、スーパーも休んでいないし、配達もあるし、わたしの小さい頃とはだいぶ様子が違います。「お正月の買い出しをしないと」と、アメ横などに勇んで出かけていた親の姿が脳裏に焼き付いていますが、当時はほんとーうにお正月はどのお店もやっていなかったから、食べ物の確保は必須だったんですね。
あの、「手も足も出ない」かんじって、よかったな。街全体が眠っているように静かで、何もできない。まるで雪の日の休校みたいに穏やかな時間。

「年越しなんて儀式でしょ儀式。人間って儀式が好きだよなあ」と、高校生のニイニは言い放ちます。
そりゃまあ、年越しなんてカレンダー上のことです。事実、欧米では元旦だけ休んだら2日からは仕事は通常運行とのこと。日本もそうなっていくだろうなと思いつつ、お正月のせいにして誰もがしばし日常休戦っていうこのかんじ、やっぱりなくならないでほしいなあ。儀式でもなんでも、せーのっで休むってことにわたしは大きな意味があるなあと思います。

源平合戦だってそうです。ずーっと闘い続けるなんて疲れちゃうから夕刻は一時休戦。自分が休んでいても相手がワークしてたらぜんぜん休まらないですからね。お正月は、メールを開いても仕事の連絡がない!締切も、ない!笑。
心身ともにゆっくりできるひとときです。

さて、我が家の年末年始ですが、毎年だいたい「年末は南房総」「年始は東京」というリズムでやっています。

というのも、お正月に欠かせないものを、南房総で調達せねばならないからです。フツウにお店で買うこともできるものですが、今となっては後戻りできません。だってクオリティが違うんだもの!

お正月に欠かせないもの。
それは、この3つです。

 

1つめ)しめ縄飾り
玄関にしめ縄飾りを飾る習慣は、昔も今も変わらないですよね。(バンパーにちっちゃいしめ縄をつけている車は減りましたけどね!笑。)
スーパーでもお花屋さんでも売られていますから、ひょいと覗いて選べば手に入ります。
別になくてもいいけど、まあ一応、飾っておくか。そんな程度ですけどないと寂しいんで、以前はわたしも買って調達していました。

でも、ここ数年、お飾りは1から自分でつくるようになっています。(お節料理はテキトーなくせに!笑。)
だいぶ前に、地元の方々が稲藁をなってつくっているのを見て、ちょっとやらせてもらったらことのほか楽しくて、家族でハマってしまったのがきっかけです。以来、運営するNPO法人南房総リパブリックの里山学校で、しめ縄飾りをつくるワークショップを毎年手がけるようになりました。

このワークショップ、集まったらまず、裏山をわしわしのぼるところから始まるんですよね。

両手使ってのぼるかんじです。踏ん張って!頑張って!……しめ縄飾りのワークショップに見えない笑

両手使ってのぼるかんじです。しめ縄飾りのワークショップに見えない笑

しめ縄の材料を、裏山から採ってくるところからやろうじゃないの!というワケ。
裏山はその昔、薪や炭、茅葺屋根の茅など人の暮らしに欠かせない材料を採る場所でしたが、今では人間は裏山に用事がないため、ほとんど誰も足を踏み入れなくなっています。それでも、昔の人のつけた杣道をたどっていくと、植林されたヒノキがあったり、隣の集落に続く尾根道を見つけたりと、とても面白い。

お飾りにつかう「ウラジロ」も、尾根沿いに生えています。
これを必要量だけ採って、持って帰ります。

ウラジロというシダの葉。「後ろ暗いことがないように」という意味で使われます。

左に生えるのがウラジロというシダの葉。「後ろ暗いことがないように」という意味で使われます。

縄ないは、地元の名人たちから教わります。
コシヒカリの藁を軽く湿らせたものを、適量手に取り、ぎゅるぎゅるぎゅる、と「なう」。
両手の手のひらでねじるようにより合わせるのです。はじめは難しいんですが、ちょっとコツを覚えると、これがたいへんに面白い作業でね、夢中になって何時間でも縄をなっていたくなる!

 

マンツーマンで教わると、「あ!このかんじか!」と体で覚えていきます。山口さんは、集落でも随一の縄ない名人。

マンツーマンで教わると、「あ!このかんじか!」と体で覚えていきます。山口さんは、集落でも随一の縄ない名人。

 

自分がやろうと思って見ると、本当に真剣になります。こともなげにするするなって、うまいんだなあ、小出さん。

自分がやろうと思って見ると、本当に真剣になります。こともなげにするするなって、うまいんだなあ、小出さん。

 

こうしてできた縄に、こんどは飾りつけです。
「しめ縄、いいんだけど、うちの玄関に合わないのがちょっと」という人もいますけれど、自分でやれば思いのままです。人気フローリストの高畠美月さんが飾りつけの講師となり、裏山で調達した実の美しいつけ方を教わります。

獲りたてのウラジロは青々してる!時間が経つと味わいの増す、自然由来のお飾りです。

獲りたてのウラジロはぴんぴんしてる!一般的にウラジロは白い方を表にして使いますが、今回は自由に。

高畠さんのスムーズな手の動きを見ていると、自分もちゃっちゃとできそうなんだけどね。やはりプロの技は違うということに、やりながら気づくわけです。実のボリュームの配分や、華やかさ、まとまり、オリジナリティ……喜々として進める人もいますが、ここでつまづく人もけっこういます。

うんと凝っても、大胆にシンプルにまとめても、素敵になるのは里山の素材の力です。2017年の幸せを願い、世界にひとつだけのしめ縄飾りをつくることができました。
大掃除がはかどらなかろうが、年賀状が間に合わなかろうが、ともかくこれだけのエネルギーを注いだしめ縄飾りができただけでもう相当いい年になりそうでしょ?

どれひとつ同じものはない。

どれひとつ同じものはない。

 

我が家の東京の家の玄関にも、娘のマメが苦労してつくったしめ縄飾りが。

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ウラジロ、時間が経つとくるん!となります。

縄ないはよかったけれど、飾りつけでどうにもとっちらかっちゃった感がありますが、それでも彼女にしかつくれなかったこれが、2017年の我が家のお飾りです。

想い出もぎっしり、未来もぎっしりつまっています。

 

2つめ)お餅

我が家はお餅の消費量がハンパなくて、3が日だけでのし餅を3枚ぺろっと平らげてしまうんです。だって、特別に美味しいやつが手に入るから。

南房総のウルトラ名大工・村上建築工房の村上さんと、息子のニイニ。村上さんはニイニのサーフィンの師匠でもあります。

南房総のウルトラ名大工・村上建築工房の村上さんと、息子のニイニ。村上さんはニイニのサーフィンの師匠でもあります。

村上さん一家とは、かれこれ8年ほどのお付き合いです。昔は杵を振り下ろすことなんてできなかったチビのニイニはこうしてうすらでかくなり、ちょっとずつ縮んでいくオトナのわたしたちはこどもたちの成長に目を細め、定点観測のように過ぎる月日を愛でる瞬間です。

週に2日しか南房総にいないわたしたちですが、ここで紡いできた歴史は何にも代えがたいなあ、と、妙に感傷的になってしまったりね。

ここでの年末お餅つき大会で使われているもち米は、NPOの理事でもある南房総ほんまる農園さんのつくったもの。ほんまる農園のお餅を食べるとちょっと他のものが食べられなくなるくらい、味と伸びがよいです。

分厚くて、柔らかくて、もち米の香りが高くて、ご飯茶碗に換算したらいったい何杯分なのか恐ろしいくらい食べてしまう。。。

分厚くて、柔らかくて、もち米の香りが高くて、ご飯茶碗に換算したらいったい何杯分なのか恐ろしいくらい食べてしまう。。。

我が家には元旦、親戚が一堂に会するのですが、そこでこのお餅が振る舞われると「これだこれ、うちのお餅」「美味しい~」「いくらでも食べられちゃう」と、みんな夢中で食べます。ほうぼうに住まう親戚が、ほんまる農園さんにも、村上さんにも会ったことのない人たちが「うちのお餅」って言うのが本当におかしいし、嬉しいです。

 

3つめ)水仙
南房総の冬は寒いんだよねーと毎年しみじみ思う一方で、この花の咲く早さを見ると、やはり温暖な地域なのだなと認識します。

11月半ばにはもう花ひらく個体もあります。

11月半ばにはもう花ひらく個体もあります。

道沿いの斜面地に咲き誇る、水仙。
独特の甘やかな香りがあたりにフワッと漂い、冬真っ只中にいながらも遠くに控える春ヘ誘われていきます。

水仙の香りって、不思議でね。
いろいろな思い出を、喚起するんですよね。

小学生、中学生時代の卒業式のこと、高校の玄関あたりの風景、それからちょっと飛んで、12~13年前に二地域居住の候補地を探しまわっていた頃のこと、それからこどもが小さかった頃の三芳での日々。

なにか、幸せな記憶が脳裏に浮かぶ香りなのです。

家のまわりの水仙を切り、広げた新聞紙の上にいっぱい。
花を切る作業は手が冷たくて痛くなるほどですが、娘たちとがんばって、ご近所に分けられるほどの量を集めます。
それを東京の家に持ち帰ります。

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後ろのストックも、房総産のもの。

 

室内が水仙の香りで満たされる時、「ああ、いいお正月が迎えらえるな」というほっとした気持ちと同時に、東京と南房総の空気が混ざり合ったような広がりのある気分になるのは、きっとこの2つの土地を行き来しているわたしたち固有の感覚でしょう。

……この3つが揃うのが、我が家のお正月です。

それぞれの土地の暮らしが個人の中で融合し、新たな豊かさを生み出していく二地域居住。まださほどメジャーではないライフスタイルですが、いろんな人が、いろんな場所で、いろんな化学反応がおこしていったらいいなあと思います。このコラムが、二地域居住を考えている方の背中をちょっと、そっと押すきっかけになれば嬉しいです。

では今年も、お見限りなきよう!

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。
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