先日、ある友人から「それで馬場さんは、何をしている時がいちばん幸せなの?」と聞かれました。
これはけっこうドキッとする質問です。
というのも、じつはわたし、趣味があるようでなくて、「登山しているとき!」とか「料理しているとき!」と言い切れるものがないんです。
言ってみれば人生全体が好きなことのパッチワークみたいなんだけどさ。仕事も、子育ても、南房総での暮らしも好き。だからと言って「草刈りしているのが一番幸せ」ってのもちょっと違う。これら全般、“やりたい”と“やらなきゃ”の綾織りですから。
そんなですから、友人の質問にぱっと答えられず、とりあえず「文章を綴るのは好きだよ」なーんて言ってみちゃったりしました。友人は「へー」と言いながら(ほんとかよ)という目をしていました。そりゃ締切に追い詰められて執筆している時は、幸せという感覚からは程遠いもんな。笑。
ちなみにその友人は、明らかにDIYをしている時が幸せなんだろうと思います。どうしたらDIYの時間をより多くひねり出せるか、ってことばっかり考えて暮らしていそうだもの!
まあ、どうせわたしなんて、無趣味のつまらない人間だし。
と思っていましたが、よく考えてみたら、ありました。
すごく幸せなことが。
それは、「生きものといる時間」です。
ジャンルを問わず、生きもの全般が好きなので、夏は海に潜り魚を観察するのが楽しく、畑で野菜を育てることが目的なのに土の中の昆虫に夢中になる。キジの卵を見つけちゃったら孵化させて放鳥まで育てたり、サンショウウオの卵を見つけたら孵化させて放流まで育てたり。ひょっとしたら変人域かもしれません。そんなだから、「週末田舎暮らし」がやめられないのでしょうね。
思えばこれまでいろいろ飼ってきました。イヌ(ゴールデン)、ネコ(野良)、オウム(キバタン)、インコ(セキセイインコ)、キジ(野良)、ハムスター(ゴールデン)、サンショウウオ(野良)、イモリ(野良)、さまざまな淡水魚(野良)、さまざまな昆虫(野良)……これを見守ってくれる、あるいはともに育てている、少なくとも文句は言わない理解ある家族には感謝しかありません。
我が家の場合は二地域居住をしているので、移動可能な動物は、基本的には一緒に移動しています。中でも、東京の家の庭先で生まれた「くろ」と「ぴょん」は、生まれた時から二地域居住ネコ。東京では室内で飼っていますが、週末になるとカゴに入れられ、着いた先でカゴを開けられると「うわあ、自由なところに着いた!」と瞬時に察して飛び出し、週末は野山で駆け回り野生生活を楽しむ、というライフスタイルが定着しています。わたしはそのネコの奔放な姿を見るだけで、本当に幸せな気持ちになります。
「え?ネコって移動させて大丈夫なの?“犬は人につき、猫は家につく”んじゃないの?」と聞かれることがあります。今回はずばり、ネコの二地域居住の実態について、お話しようと思います。
あくまで個人的・個別猫的な話ですが、「なんだ、ネコがいても二地域居住はできるんだね!」と思ってもらえるなど、ご参考になれば幸いです
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ネコの二地域居住① “犬は人につき、猫は家につく”としたら、二地域居住はネコにとってストレスか?
残念ながらネコの言葉が分からないので、正確な情報だとは言い切れませんが、少なくともわたしが見る限りでは、行き先が「南房総の家」といったように固定されている場合はストレスは少ないのではないかと思います。
南房総の家に到着するや否や、その環境に順応する姿が見られます。車に1時間半ゆられ、到着してカゴがひらかれると、まずは伸び~をして、それからダーーーッと走り出します。まるで園児が公園で意味もなく「わーーーっ」と叫びながら走っているような風情です。開放感が嬉しいんでしょうね。それが落ち着くと、しばし土の匂いを嗅ぎまわり、うろうろ歩き、1時間ほどするといつもの落ち着きを取り戻して家に戻ってきます。
もちろん、どこに何があるか、自分の寝床はどこか、「このドアは上のぽっちを押したら開く」など覚えていますし、勝手知ったる我が家というふるまいです。“猫は家につく”とは、2つの家の場合でもそう言えるのでしょう。
ただ、それはあくまで毎週通っている場所だからだと思います。例えば、わたしの実家に連れていくと、ぴょんはそれなりに居場所を見つけてくつろぐことができますが、くろはまるで馴染まず、本棚の奥に身を潜めて1度も出てくることなく、飲まず食わずで過ごします。
ネコの二地域居住② 田舎で放し飼いして、いなくならないのか?
実は当初、わたしもそれが心配で、南房総の家でも室内飼いをしようと試みた期間があります。とはいえ、田舎の家は基本、人間の方が緩んでいますので、窓や戸が開けっぱなしだったり、網戸だけ閉めて通風を確保していたりで、それだとネコは手で開けて容易に出られてしまうんですよね。
迷子になってしまうかもしれないというのもありますが、一番心配だったのは、随所に仕掛けられたイノシシ捕獲用の罠。箱罠やくくり罠など、敷地内にも仕掛けられています。
下に住んでいるおばあちゃんの飼っているネコは、くくり罠に足をひっかけてしまい、皮がずる剥けになった状態で見つかったことがあったそうです。
ただ、脱走を繰り返す子ネコたちの動向を見るうちに、「おや、これはひょっとしたら、野放しにしても大丈夫かな?」と思うようになりました。
というのも、彼らは思いっきり自由に野山を駆け回っているようで、じつはごく限られた範囲でしか行動していないのです。家族5人がばらばらな場所で過ごしている時も、その誰かの視野に入っているところにいるのがほとんど。
見えないな?と思っても、車の下とか、屋根の上とか、縁の下とか、家のまわりにいます。
畑仕事をしていると、2匹ともそのまわりになんとなーくやってきて、つかず離れずの距離にいます。かまってもらえないと背中に乗ってくるので、こっちの作業がはかどらないこともあります。草刈りなどエンジンの音がうるさいものを使っているときはまったく近づいてきませんが。
面白いのは、わたしたちが近所のおじいちゃん、おばあちゃんちに用事があって行くときです。お散歩か?!と気配を察してスッタカスッタカ走ってやってきて、最初は人間の足にもつれるように一緒に歩いているのですが、曲がり角を過ぎて10mくらいのところで2匹とも「ピタッ」と足を止め、そこから先は絶対についてこないのです。「ここから先は縄張り外です」と言っているかのような動きです。
そういえば以前、ネコ好きのおばあちゃんにうちの2匹を見せたくて抱っこして連れていこうとしたところ、縄張り外に踏み出た途端、全身で猛抵抗して腕から飛び出しダダダッと戻ってしまいました。
ネコの二地域居住③ ネコにとって、田舎暮らしは幸せなのか?
これがいちばんのポイントですよね!
人間のエゴで無理に往復させているとしたら、まったく本意ではありませんから。
犬を飼っていると、広いところで遊ばせたい、という理屈がスッと通るのですが、ネコは一体、田舎で何をやるのが嬉しいんだ?と。
うちの2匹に限って言えば、人間と同じで“東京ではできないこと”を思いっきりしています。
例えば、木に登る。
助走をつけて、一気にのぼりつめます。それはもう身軽で、さっすがネコ科!と称賛。
で、降りられなくなる。笑。
それから例えば、狩りをする。
すごいなあと思うのは、人間は生きている姿をほとんど見たことのないモグラを、しばしばつかまえてくることです。あとは野ネズミ。野ウサギ。たまにカエルやヘビも。虫はそれほど興味がなさそうですが、以前ゲジゲジを食べて口から泡を吹いていました。
あとは例えば、その時にいちばん気持ちのいい陽だまりを見つけてぐうぐう寝る。
家の中だと日光の当たる場所は限られていますが、外にいればどこだっていいわけです。風の向きや強さ、日射の角度なんかでちょいちょい場所を変えています。まあ大抵は人間が畑にいる近くの草むらに埋まっているんですが、実は草や土の上より、コンクリートやブロックなどの方が好きみたいですね。体が汚れないからか、集光してよりあったかい場所だからかな。
もっとも好きなのはデッキです。日が当たり、且つ見晴らしがよい場所は、評価が高い。
南房総にいるときのネコたちは、東京にいる時よりも人間に甘えてくるので、かわいいなあと思う一方で、どこかで不安が強まるのかなとも思います。ただ、思いっきり走ったり、思いっきり甘えたり、思いっきり狩りをしたりするということは、刺激をたくさんもらって活性が高まっているということ。その状態は、不幸そうにはあまり見えません。
そのかわり、東京に戻ってきた翌日の月曜日は、ともかくよく寝ていますね。ほとんど1日中、ぐうぐうぐうぐう。きっと疲れるんだろうね。笑。
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田舎でこどもが生き生きしているのを見ると幸せになるのと同じで、ネコが幸せそうな様子は、人間を幸せにする力があります。よく晴れた週末は、「よーし野良仕事ができるぞ!」と思うと同時に、「ネコが喜ぶぞっ」というのも嬉しくて。
まあひょっとしたら、人間の尺度で勝手にネコの幸福感を決めつけているだけで、ネコにとっては「めんどくせー、また移動か」って話かもしれないけどね。
実は先日、2匹のうちのキジネコのほうのぴょんが突然、亡くなりました。
前日までとても元気に見えたのに、翌朝、ふと、息絶えていたのです。
あまりにも突然のことで、人間も、くろもその事実にまだ慣れていなくて、「ぴょんはいないんだっけ」と思い出すたびに涙が出てきてしまうのですが、直前の週末まで南房総でのびのび遊んでいた姿を思い出して、いい一生になっていたらいいな、と思うようにしています。
お墓は、南房総に。
ひとりぼっちになったくろの、常軌を逸した甘えっぷりに、「そうだよね、相棒がいなくなっちゃったもんね」と語りかけながら寂しさの募る日々ではありますが、くろとの二地域居住をこれからも幸せなものにしていきたいです。
ネコとヒトとの二地域居住は、いいものですよ。