暮らし術

今までさんざん二拠点生活推しで、突然申し訳ないんだけど。

二拠点生活って実際やりたい?家を2つ持つって重たいですか?
みなさんわたしには言いにくかろう。
でも心の中では「無理無理」と思ってますよね多分。

いいんです、思ってくれて。だってみんな忙しいし都合があるし、だいたい住む場所は1つで足りるし。コロナ禍で二拠点生活者が増えたとはいえ、これからどんどん増えてクラスに3-4人いるというレベルになるとはちょっと思えませんよね。

まあでも田舎っていいなあと思うくらいの人は少なくないんじゃないかな。都市生活から出られない時間が続くとムズムズしてきて、無性に自然の中に浸りたくなる。

よく考えれば、それって何故でしょうね。別に自然に触れなくても生きていけるはず。人間にとって便利でラクチンで生きやすくできているのが都市のはず。だからこそ暮らす場所として選んでいるのに、どこかが満たされない。

わたしは都市環境をありがたく使い続けている身です。「こんな東京砂漠じゃ人は生きていけねぇ!」とは思わないので移住もしていません。なんなら田舎から東京に帰ってきてホッとする時さえあります。イノシシと闘わなくていいし、野良仕事にも追われないし。庇護のもとで生きられる安心感ですかね。あと、システムに管理されているって楽なんですよ。
一方で、いくら空調を最適にしても、やっぱり野外の綺麗な風の気持ちよさには遠く及ばないんだよなあ。いい匂いの香水を纏っても、野の花から漂う春の風味には叶わない。土の湿気の匂いは香水にならないけど肺の奥まで吸い上げたくなります。
身体なのか精神なのか、とにかく自分の根本的な部分が求めているんですよね、田舎成分を。

4月の田舎成分はタラの芽、セリ、ノビル、ミツバ。天ぷら万歳!

4月の食べられる田舎成分はタラの芽、セリ、ノビル、ミツバ。天ぷら万歳!

あとは、そこに好きな人がいれば不足なしです。
どんなに野の匂いを吸い込んでも満たされないのは、その部分。好きな人のいるところには行く気がするし、ずっと居たいと思えてきます。

つまり、自然があって、好きな人がいる、そんな場所に定期的に通えれば「家がなくてもいい」と言えてしまうんじゃないか?それならクラスの大半の人ができるでしょ。
いろいろなところに行くのが旅の楽しさだと思う人もいるかもしれないですが、同じ場所に通う楽しさはまた別格です。なぜなら、一般的に旅は自分がその土地のことを一方的に知るだけの片思い体験であるのに比べ、何度も通う馴染みになると「ゲストさん」「ホストさん」ではなく「田中さん」「小野さん」とお互い知り合う対等な関係ができるから。お互いにとってかけがえのない存在になれるから。これを絆と言います。

一番簡単な方法は、自分の家のように通える宿をゲットすることだと思います。好きな宿主がいて、好きな空間があって、好きな自然が身近にあれば100点です。
そしてポイントは、「自宅から通えるエリアに推し宿を持つこと」。そこは二拠点生活の候補地と一緒の考え方ですね。宿泊費は住居費と思えばいいです。

二拠点生活をしていて残念なのは、家があるから宿に泊まる機会が激減するということです。友達などに「今度南房総に行こうと思うんですが、オススメの宿はある?」と聞かれるたびにムズムズします。いいなあ、ワクワクしながら泊まるって。いいなあ、選択肢があるって。
若干不貞腐れた気分になりつつ質問に答えます。「よかったらココに泊まってみて。わたしは泊まったことないけど多分いいよ。少なくとも宿主はサイコーだよ」ってね。

そんなわけで南房総エリアの3つの宿を、みなさんに紹介します。
共通する特徴は、宿主が圧倒的に魅力的だということ。だから宿の紹介なのだけれどとっておきの友人を紹介するような気持ちです。いちいち宿主とコミュニケーションをとるなんてめんどくさい、いい部屋だけ提供してくれればいい、と思われる方もいるでしょうけどね。(わたしもどちらかというとドライな宿が好き。)会話をするしないによらず、やっぱりいい宿はいい人が経営していると思いますよ。

 ➀白浜豆腐の店主でサーファーの安藤壮さんが手掛ける「SUNAO Retreat」
房総半島の南端・白浜には美味しい豆腐をつくる人がいる、というのは地元の常識。初めて彼のつくる生絞り豆腐をいただいた時、こりゃあすごい職人さんだなと思いました。大豆の旨味を生かし切った丁寧な味、ほろほろと口でとける食感。つくる料理もいちいち味のキメが鋭くて、素材も味付けも身体にいいかんじなのに風味の輪郭がはっきりしていて「そう、これだよこれ!」というストライクゾーンにばちっと当ててくるんです。
和食だけでなく無国籍料理も美味しいんだな、これが。何度かイベントの出張料理でいただきました。豆腐のプロではあるんですが、いろんな境界をこだわりなく越えて感性を自由に駆使しているように見えます。

で、どんな人なのかと言えば、日焼けした顔がごっつくて、豆腐とは対極の様相。こわいような、強いような、でもよく見ると目の奥にふざけた光をたたえています。

〇年中やたらと黒いのはそうかなーと思ったらやっぱりサーファー。

年中黒いと思ったら、やっぱりサーファー。

その彼が今年に入ってなにやら自分で家らしきものをつくっているなあとSNSで苦戦っぷりを眺めていたところ、できたのがこの「SUNAO Retreat」でした。豆腐だけでなく家もつくれるんだなあ!まるで絵本から出てきたような里山の一軒家ですが、海からも近い。本人がサーファーだからそこは外せないんだな。

よくこんな場所を見つけたよね。

よくこんな場所を見つけたよね。

 

1日1組限定、安藤さんがその日のゲストのためだけにつくる料理が夕朝と2食いただけるそう。うーむ。

1日1組限定、安藤さんがその日のゲストのためだけにつくる料理が夕朝と2食いただけるそう。安藤ご夫妻は、ヨガと体にいい食事を探求するインド滞在中に知り合ったとのこと。

 

こういうホスピタリティ溢れる部屋をつくるんだなあ!と驚きました。豆腐と同じで丁寧な仕事です。

こういうホスピタリティ溢れる部屋をつくるんだなあ!と驚きました。豆腐と同じで丁寧な仕事。

 

彼のおからドーナッツが好き。おからがずっしりしているはずなのに、外側のカリッカリの食感と良質の油の味にだまされてついつい複数個食べてしまう危険食物。おねだりしたらつくってくれるかも。

彼のつくるおからドーナッツが好き。ずっしりしているはずなのに、外側のカリッカリの食感と良質の油の味にだまされてつい複数個食べてしまう危険食物。おねだりしたらつくってくれるかも。

1棟貸しなので、こんなご時世でも家族で心置きなく楽しめますね。安藤ご夫妻はヨガと体にいい食事を探求しにインドに滞在していたこともある猛者で、ヨガや薪風呂、豆腐づくり体験、SUPも教えてくれるとのこと。いわゆる田舎暮らしで一度やってみたかったんだ!ということがだいたいできるというね。こどもがいると、「ただ泊まる」だけだと座持ちしないので、宿にいて飽きないのは助かります。安藤さんの手ほどきだから多分面白いことになるでしょう。真面目なのかふざけているのか分からない、その人柄によって。
コロナ禍で楽しみの少ない日々を送っている中ではなおのこと、印象深い時間になるはずです。

 ②身体のプロである土屋夫妻が暮らしに向き合ってつくった「土の環」
ぶっちゃけて言うと、わたしは土屋夫妻のファンなんですかね。好きなんです、彼らが。
奥様の有希子さんには以前、里山学校のランチづくりのお手伝いに来ていただいて知り合いました。なのですが、厨房での存在感がすごくて、すらっとしなやかな身体としぐさが美しくて思わず見惚れてしまったんですよね。聞けば本職はダンサーとのこと。身体で勝負している人は違うなあ……とぼーっと思いました。見た目だけでなくて、発する生気が美しくて。その時はダンサーという職業によるものだと思っていましたが、生き方全体にすっと筋が通っているからじゃないかなと、あとで気が付きました。

ご主人の裕明さんには、宿泊イベントでコンディショニングストレッチのインストラクターをお願いしたことがあります。参加したメンバーが朝、芝生の上で身体と心をリフレッシュするストレッチをするというもの。これが気持ちよくて!自分の身体がどう伸びて、どう喜んでいるのかをゆっくりと確認しながら動かすのですが、その時の解説がいちいち的確なんです。難しい理屈はなく、気づきはある。主催していたわたしもウッカリ参加者として満喫してしまった時間でした。館山にある有名なアウトドアフィットネスクラブ「SEA DAYS」の人気インストラクターだという理由が一発で分かりました。

土屋夫妻。肩の力の抜けたいい笑顔です。いっつもこんなかんじ。

土屋夫妻。肩の力の抜けたいい笑顔です。いっつもこんなかんじ。

 

前で指導するのが裕明さん。芝生の感触が忘れられません。

トレーナーとして前で指導するのが裕明さん。本当に気持ちのいい時間でした。

2014年に館山に移住した彼らの拠点には、2つの家があります。ひとつは築100年の古民家、もうひとつはご両親と暮らすための新築の家です。この古民家を地元の職人さんと自分たちでリノベーションして、「土の環」という宿にした次第。

丹精に甦らせた空間。調度品も含めてとてもセンスがいいです。

丹精に甦らせた空間。調度も含めてセンスがいいです。

 

川の字で寝る部屋。

川の字で寝る部屋。静かな館山の夜が染み入ります。

 

開業前に一度お邪魔したことがあります。有希子さんのお味噌をいただきに。この時、築100年という時間の厚みとリノベーションによって得た空気の流れの良さ、どっちも印象深かったです。彼らはこの宿を、本当に自分の家の延長のように暮らし心地を追求してつくったんだろうな。形のデザインだけでなく、なんだ?気のデザインっていうの?目に見えないけれど圧倒的に居心地に影響している何かをつくっているのだと思いました。
そしてお味噌がめちゃくちゃ美味しかったんだ!

 

ちょっと他のものに後戻りできないくらい美味しいお味噌でした。

ちょっと他のものに後戻りできないくらい美味しいお味噌。

 

ここも1組限定。館山の海からも山からもごく近い、土地の暮らしがそのままある一角に佇んでいます。自然の中での暮らしで人はより健康になれると確信して移住した彼らだからこそ提供できる時間だと思います。以前若い方々にこの宿を紹介したところ、「土屋夫妻がとても素敵で、夜いろいろな話をしたのが忘れられない時間になりました」という報告をもらいました。そうだろうなあ、わたしも一緒に泊まりたかったよ。

 ③館山の価値を底上げしてきた漆原秀さんが手掛けた「tu.ne.Hostel」
最後にご紹介するのは、館山駅から歩いて行けるところにある「tu.ne.Hostel(ツネホステル)」です。ここはすでに有名なので、ご自身でその価値を調べてみてください。いろいろ逸話も満載です。
居心地がとてもいい素泊まり宿で、本当にここを拠点にして館山に居つく人もわりといます。

ツネの前にあるのはトゥクトゥクというオープンエアの三輪自動車。運がよければ乗せてもらえます。これからの季節には最高の乗り物!

ツネの前にあるのはトゥクトゥクというオープンエアの三輪自動車。運がよければ乗せてもらえます。これからの季節には最高の乗り物!

 

ツネにどうしても泊まりたくて、館山での仕事にかこつけて家に戻らず宿泊したことがあります。あの時は嬉しかったなあ。リノベーションの工事途中に伺ったこともあるし、クラウドファンディングで応援もしていたし、何ならその返礼でわたしの名前が壁に書かれているのにずうっと泊まれなかったから。
元診療所だったこの建物をホステルにリノベーションしたウルさんこと漆原秀さんは、館山の遊休物件を次々と甦らせて新しい価値を生み出しているまちづくりの天才です。

ウルさん。この人が館山のまちを変えています。

ウルさん。この人が館山のまちを変えています。ツネの周辺には彼の手掛けた施設がいろいろあります。興味があれば紹介してくれるはず。

 

個室の朝。ドミトリーもあります。ビジネスホテルと同じような価格で圧倒的に豊かな空間です。友人の家みたいな親密感と、絶妙な非日常感があるんです。朝日が入るとコーヒーが飲みたくなるインテリアです。

個室の朝。ドミトリーもあります。ビジネスホテルと同じような価格で圧倒的に豊かな空間です。友人の家みたいな親密感と、絶妙な非日常感があるんです。

 

共有スペースで自分でコーヒーが淹れられます。料理だってできます。写真中の友人は「だからいつもここに泊まるんだよ」と言っていました。

共有スペースで自分でコーヒーが淹れられます。料理だってできます。写真中の友人は「だからいつもここに泊まるんだよ」と言っていました。ワークスペースもあるのでリモートワークで長期連泊もできます。

 

ツネ周辺の魅力を、この地図一発で紹介できています。ただの観光ではなく、暮らすように泊まれるようにという願いが込められているよう。

ツネやその周辺の紹介地図です。ただの観光ではなく、暮らすように泊まれるようにという願いが込められています。

車がなくたって大丈夫です。だって夕陽の美しい北条海岸にも歩いて行けるし、周辺には美味しい飲食店も、美味しいパン屋さんもあるし。宿からちょっと行くと、同じくウルさんの手掛けた「永遠の図書室」という戦争関連書籍の図書館もあります。歩いて館山を楽しむ拠点としてここ以上の場所は思いつかないです。

・・・
この3つ。2021年春、わたしの推し宿でした。
自分の大事な人たちを紹介するのって妙にドキドキしますね。

もし気に入ったら、まるで家のように何度も泊まってみてください。そのうちきっと周辺に土地勘が出てきて、宿主さんと親しくなって、この宿を拠点とした二拠点スタイルができてきます。
(感染症対策はバッチリでお願いします。好きな場所のことは大事にしましょうね。言わずもがなですね。)

通える田舎があると、人生はきっとずっと幸せだよ!
たとえ家がなくてもね。

でも家があるとその倍じゃきかないくらい幸せだけどね。へっへっへ!

これ、わたしの推し干物。めちゃくちゃ美味しいです。一昨年の台風での半壊した、館山市布良にある民宿・富崎館を再建させようとしている八代健正さん・やしろみほさん親子の手づくりです。「やしろ みほ」さんのインスタメッセージで発注します。売上金は再建費へ。一部は布良崎神社の復興費に寄付されます。富崎館も、わたしの大事な推し宿。応援しています。

これ、わたしの推し干物。めちゃくちゃ美味しいです。一昨年の台風での半壊した、館山市布良にある民宿・富崎館を再建させようとしている八代健正さん・やしろみほさん親子の手づくりです。「やしろ みほ」さんのインスタメッセージで発注します。売上金は再建費へ。一部は布良崎神社の復興費に寄付されます。富崎館も、わたしの大事な推し宿でした。再建を応援しています。

 

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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