暮らし術

こんにちは、馬場です。皆様、ご無事でしょうか?
前回記事を執筆していた時は「年明けたらぼちぼち通常運行の世界へ戻ってたりして?」と淡い期待をしていましたが、まだもうちょっとかかりそうですね。

二拠点生活、16年目になりました。

コロナ禍での2年ほどで、生活環境の変化もさることながら、自分自身もだいぶ変わりました。マスクの下で顔がたるみましたとか、洋服の購買意欲が下がりましたとかもありますけどね。
おうち時間が増えたことで、舌が肥えたんです。

誰にも奪われない日々の楽しみは食べること。
「あー、幸せ……」とシラフで言えるのって大恋愛中か飲食中じゃないでしょうか。

でね、すっごく美味しいものに出会うと、なぜか人に教えたくなる。
不思議なことです、自分だけでほくそ笑んで食べていればいいものを。それで「美味しい!」と言われた日にはすごく嬉しくなる。
食べ物って、突然五感でつながりあう強烈なコミュニケーションツールなんでしょうね。

今回は、わたしから皆さんへ、ぜひ食してみていただきたい味を一方的に3つほどお伝えしようと思います。

「どうせ南房総の名産でしょ」と思われるかもしれません。
まあそうです。でも地域応援と思われたら、ちょっと不本意。
たまにあるんですよ。地域のものだから、あの人がつくっているから、という前置きなしにシンプルな感動を伝えたいものが。

今回ご紹介するのはそういうものです。
なんなら今年初コラムを読んでくださる皆さんへのプレゼントくらいの気持ちです。いきますね。

リコメンド➀ 香りが鼻に抜ける時ビジュアルが浮かぶジン【TATEYAMA GIN】

わたしはお酒に強くないのですが、飲むのが大好きです。ちょっとですぐいい気分になれてリーズナブル。何でも飲めるけれど、だいたいビールかワイン、日本酒。強いお酒は常備していません。そして詳しくもないです。そういう人間が言っていると思ってください。

館山で地域おこし協力隊をしている建築家の大田聡さんが、館山駅近くに『TAIL』という複合施設をつくってクラフトジンの蒸留所とカフェ・バーを始める(って一体このひと何が本職?ってかんじですよね)と聞いたときは、ジンかあ……馴染みが薄いな、といまいちピントきていませんでした。その後、TAILのランチを食べに行ってフォカッチャにキャッキャと喜び、ジンのことはしばらく忘れていました。

フォカッチャがすごく美味しかったので。

で、昨年末、親にいろいろあって大変な日々を送っていた時のことです。
クタクタになって家に戻ったら、玄関先にとめてある自転車のカゴに見慣れない袋が入っていました。なんだろう?と中を見ると、ジンの瓶と、トニックウォーターと、オリーブが入っています。

仕事で近くまで来ていたという友人がわざわざ差し入れてくれたのです。
「ジン、キンモクセイのフレーバーなの。喜んでくれそうな気がして」と。
わたしはキンモクセイが好きで、秋になるとまちのキンモクセイを嗅ぎまわっているんですが、それを知ってか知らずか。

その夜、砂袋みたいに重たく疲れた身体を持て余しながら、このジンをあけました。
よく見ると瓶に『TATEYAMA GIN』とレーザーカッターで刻印してあります。

おつまみに荘内半島産オリーブ、そしてトニックウォーターまで。涙。

トニックウォーターで割り、一口飲んで、「ん~~~!」と思わず声が出ました。
ものすごく、ものすごくいい風味だったのです。

どうしたらこの風味が出るのだろう。香りが鼻に抜ける時、高原の花畑でスカートをなびかせながら歩いているような気分になる。あるいは身体にパステルグリーンの風が吹き抜けるような飲みごこち。ちょっとおかしな表現ですが、本当にそうなんです。疲れを忘れるお酒とはこういうものだなと思いました。

いやあ、ジンって美味しいんですね!初めてそう思いました。あれ、美味しい、あれ、やっぱり美味しい、と香りを確かめながら飲み進めてしまいます。
そしてこのキンモクセイのジンは、ちょっとイケませんね。へんな力で引き込まれてしまうかんじがします。どうやら人気らしくて売り切れていることもあるらしい。

それですぐ飲み切って、自分で買いに行きました。大田さんの顔を見て買いたかったので。館山駅から歩いて行ける「TAIL」という複合施設。クラフトジン蒸留所とカフェ・バーの上階には、シェアオフィス、ゲストハウスがあります。

本来ジンはジュニパーベリーの蒸留酒なのですが、ここではジンジャーやシソ、コリアンダー、ブラックペッパーなど様々な素材を蒸留しています。キンモクセイは5種類のボタニカルのブレンドだそう。わたしは001というフルーティーなブレンドと、クロモジの単品蒸留がとても好きです。自分でカスタマイズすることもできるらしい。たまたまこの店ができた館山は、ラッキーです。

酒豪の友人にも差し入れたところ、これは美味しい!と。やっぱりそうか。

最近わたしは、トニックウォーターで割らずにロックで飲んでいます。その方がジンの味が分かるから。
なんだか大人になってきてしまった。

リコメンド② 東京ではピザを食べなくなってしまった【Goccia のピザ】

東京にも美味しいピザ屋さんは数多ありますけどね。
わたしたち家族は、ピザは館山で食べます。

館山のメインとも言える北条海岸沿いに『Goccia』というピザのお店があります。サーフショップとかゲストハウスにも見える、小さいお店です。
うちはこのお店の常連であります。
道ばたに派手やかな宣伝を出していませんから、数年前にここを見つけた時には「あれ?こんなお店あったんだ」と思いました。

好きなお店ができると、空いていても心配になるし、混みすぎても行きにくいし、ワガママな感情が出ますね。

中もこぢんまりしたお店です。そして居心地がいい。
カウンターの中で店主がピザを焼き、奥様がにこっとオーダーに来てくれて、特に何か濃密なやりとりがあるわけではないです。でも、親しい友達の家で気を遣わずに過ごしているような安らぎがあるんですよね。初めて行った時から。
あの距離感は、何なんだろう?

テラス席も気持ちいいけど、カウンターで店主の手さばきを見ながら食べるのも好き。

でね、お料理なんですが、とっても美味しいのです!
工夫のない表現ですみません。
カリカリのガーリックポテト、トリッパ、カポナータ。水牛モッツァレラのカプレーゼ。どれも味付けが絶妙で「美味しいね」「ほんと美味しいね」と皆いちいちうるさい。娘はここのムール貝食べたさに「今週ゴッチャ行くの?じゃあ南房総行く」と判断材料にするほど。黒コショウが効いていて、たまらずお皿にたまったスープを飲み干す。あとで喉が渇きます。

ピザは好みのどストライクです。チチニエッリというシラスのピザは毎回お願いする我が家の定番なのですが、季節の素材でつくったピザが毎月楽しみで、インスタをチェックしてのこのこ食べに行っています。あれがいい、これがいいと言い出すとキリがないのは、味覚の相性が合うのかもしれません。

何よりここの生地が好きなんでしょうね。薄くて、もちっと噛むと味がいい。

つくづく思ったのは、コロナ禍でのゴッチャ休業明け。久しぶりに食べた瞬間「そうなんだよ、この味なんだよ!」と思いました。
南房総産トウモロコシのピッツァはおやつのようでした。

テイクアウトしたけど目の前の海岸ですぐ食べました。

このお店の好きなところは、南房総産の素材にこだわっている「わけではない」というところです。店主が好む素材がニュートラルに選ばれているのでしょう。だからこそ、メニューの黒板に南房総産のものが書かれていると「お?」と思う。
素材への考え方はいろいろあっていいと思います。地域素材を率先して使うお店も大事です。そして、自分の決めた品質を確保できるものを世界中から探すお店もまた、地域には必要なのです。

お店の外に見えるのは、こんな景色です。

 

リコメンド③ 旨味のかたまり【富崎館の干物】

最後にオススメしたいのは、ようやく館山らしい海産物。

美味しいですよね、干物。わたしは好きです。でもこどもたちは夕飯が干物だというと「えーそうなんだ」とテンションが下がります。どうやら地味ご飯にカテゴライズされているようです。

以前からの友人で、令和元年の台風で被災した旅館「富崎館」を再起させようと頑張っている八代健正・美歩親子が干物をつくっています。今年の初めに、直送してもらいました。それこそ彼らを応援したいという気持ちが大きかったんですけどね。

真冬の冷たい空気が干物を美味しく仕上げるとのこと。美歩さんは、かじかむ手でこれらを捌いてつくっています。

その日、夕食の食卓に出しました。
いや、これが、すごく美味しくって驚いたんです。身がキュッとしまっていて、噛めば噛むほど旨味が出てくるのです。
「これ旨すぎるぞ?旨味調味料に漬けてるみたいだぞ?」と夫がヘンなことを言うので、何言ってんの素朴につくってるよ!!と富崎館での作業風景の動画を見せたりして。

美歩ちゃんかわいい!と話題がおかしな方向にいく。

あえて例えるとしたら、臭いがないくさやみたいなかんじ。ぎゅっと凝縮した旨味があるんです。
布良漁港にあがった魚のクオリティに加えて、血抜きや下処理、塩加減や干し時間、気温など、条件がすべて整っているからなんでしょうか。

「これ美味しい、ご飯すすんじゃうヤバ」とダイエット中(でもお菓子は食べる)の高2の姉を見て、干物消極派の中1の妹がにゅっと手を出して食べ始めました。それで「美味しい、もうこれでおしまい?」と催促。

結局家族でアジ10枚ぺろりと食べてしまいました。

 

翌日、娘は独自にお茶漬けをつくっていました。

そしてなんと、犬猫用の干物までつくっておられる。
塩を抜き、頭をとったものです。
これを与えた猫がどれだけ喜ぶか分かりますか?

「シャフッ、シャフッ」という妙な咀嚼音をたてて瞬く間に完食。もっと惜しみながら食べてほしかった。

「美味しいお店をたまたま発見した」喜びもさることながら、「まず人が好きで、その人のつくったお店の品が(たまたま)美味しかった」時の喜び(と安堵)は計り知れないものです。応援に力が入ります。

こうしたお店との関わりは二拠点生活の醍醐味ではないかと思います。
旅行とは違って、好きなお店には足しげく通えるからね。

富崎館は、寒さの残る3月いっぱい干物の販売を続けるそうです。現在は新設の食堂がプレオープン、春からは本格始動。これは試食会での食事です。漁港で食べたいメニューすぎました。

・・・

ホントは、地域、なんてものはなくて、それぞれが自分のベストを尽くしているだけなんだよね。だから地域自慢に押し込めないで、ひとつひとつのお店を慈しみたい。
最近わたしは、そんな気持ちでいます。

 

※本記事は、馬場未織氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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