休日は自然豊かなセカンドハウスでの時間に身をゆだねたい。そして、心まで温めてくれるような薪ストーブがあれば、言うことなし──。
心のどこかにひっそりと留めているかたも多いのではないでしょうか。
そんな素敵なアイデアを少しでも応援すべく、プロカメラマン・写風人(syahoojin)さんに、薪ストーブの楽しさをお聞きしました。薪ストーブ歴20年以上、そして週末にはもちろん薪ストーブのあるセカンドハウスでの暮らしを楽しんでいる写風人さん。その素敵な写真とともに、お楽しみください。
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prologue : ある週末の朝の迎えかたと、炎の恩寵。
週末、仕事を終えセカンドハウスに到着すると午前0時を回っている。
人気のない部屋はまるで冷蔵庫のように冷たく、吐く息は白い。
アウターを着たまま、まず薪ストーブに向かう。
炉内に薪を組み、着火。大小2つのケトルに水をくみストーブトップにかける。
その間、車から荷物を降ろし入浴や就寝の準備をする。
小さいケトルはすぐに沸く。
特等席のチェアハンモックに腰を下ろし、
コーヒーを味わいながら炎の劇場に酔いしれる。
大きなケトルから湯気が立ちはじめた。
銅製の湯たんぽにお湯をそそぎ、
薪ストーブには目いっぱい薪を積めて眠りにつく。
森の朝は目覚めが早い。
薪ストーブの炉には、まだ赤々と熾きが残っている。
細めの焚き付けを数本放り込み、エアーを全開にするとボッと炎が立ち上がる。
朝食づくりも寒いキッチンに向かうことはない。すべて薪ストーブがこなしてくれる。
窓の外は眩しいほどの銀世界。
目を細めながら、パジャマのまま朝食を済ませ、セカンドハウスでの1日が始まる。
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このように私の週末は、薪ストーブと共に始まります。薪ストーブは他の暖房器具に比べ、冷え切った部屋がすぐに暖まるわけではありません。徐々に薪が燃え始め、輻射熱が感じられるまでは数十分かかります。しかし一度暖まれば、温度管理は自由自在。たとえば就寝前に薪をいっぱいに積め込んでおけば、寒い朝も暖かく迎えられます。
また薪ストーブは決して冬だけの暖房器具でもありません。ちょっと小寒い春先や秋口も、少し焚いてやるだけで心地よい暖かさになり、湿気の多い梅雨時でも、部屋はカラッとして過ごしやすくなります。
「火」がもたらすものの、若干の例。
暖房や料理だけでなく、火に関わることなら用途は無限に広がります。
例えば、薪ストーブは大量のお湯を沸かすことができます。
実際にこれだけ置くことはありませんが、普段は大小2つのケトルを使っています。大きなケトルは常時沸かして洗い物や湯たんぽなどに、小さなケトルはコーヒーなどの飲み物用として使います。冬は常にお湯が沸いていることほど有り難いことはありません。
薪ストーブで簡単に炭ができます。
例えば花炭づくり。空き缶の中に松ぼっくりなどの材料を入れ、アルミ箔で覆い1ヶ所穴を開けます。材料は有機物であれば果物や野菜でも上手く作れます。薪ストーブの炉内に入れ、暫くすると水蒸気が上がり始めます。水蒸気が収まると材料は炭素と無機質が残り炭が出来上がります。
また私の趣味のひとつである縄文土器づくりもできます。
縄文土器などの素焼きは焼成温度も低く、薪ストーブでも可能です。完全に乾燥した土器は直接火の中に入れず、薪ストーブの近くに置いて徐々に熱に慣らしていきます。炉内が熾きの状態で更に慣らし、その後薪をくべて本焼きします。
薪ストーブクッキングの、若干の例。
我が家の薪ストーブは鋳物製で本体全体が熱くなり、その輻射熱が暖房効果をもたらします。本体に触れると火傷するほど熱いです。少し大袈裟ですが、薪ストーブの熱を利用して大量のダッチオーブンを使った後のメンテナンス風景です。
鉄製品のダッチオーブンは錆を防ぐため、使用後に再び加熱してショートニング(油)などを染み込ませます。
調理のために真夏でも焚くことがあります。昔の暮らしに例えれば、かまど代わりと言えるでしょうか。
ほとんどの調理器具を使えますが、ダッチオーブンなどの鋳物製や鉄製品は特に相性がいいと思います。特に炉内での調理はオーブンインオーブンと呼ばれ、鉄鍋の食材に満遍なく火を通し旨みを閉じ込めてくれます。
炉内でオーブン料理をする時は、薪が熾きの状態になってから調理します。ピザやグラタンはもちろん、ごはんを炊くことも出来ます。
弱火でコトコト煮込む料理も薪ストーブの真骨頂です。ガス料理の場合ちょっと留守にする時は当然火の元は消して出掛けますが、薪ストーブなら留守中でも煮込むことができます。
小豆はよく薪ストーブで煮ます。煮込み料理によっては2~3時間煮込む場合がありますが、薪ストーブの熱を利用しない手はありません。ストーブトップは位置によって強火から弱火まで調節でき、トリベット(鍋敷き)を使えば更に温度調節が可能になります。
灰受け皿を利用して、低温料理を作ることも出来ます。写真は低温ローストポーク。表面を軽く炒めてから、灰受け皿に入れて約1時間。その後アルミホイルに包んで常温で冷まします。少し休ませることで肉汁が全体に行きわたり、ハムのようなほのかなピンク色に仕上がります。
薪割りという、「楽しみ」。
セカンドハウスでは森の管理も任せてもらっているので、間伐から薪割りまで自らまかなっています。
薪の入手方法は様々で、業者が薪棚まで運んでくれる場合もあれば、玉切り(木をひとまず輪切りにした状態)で仕入れ、薪割りは自分でやることも出来ます。
週末だけの生活ならそれほど薪の量は必要ないので、自分で薪割りして汗を流すことも楽しいものです。
epilogue : 改めて、「火」について。
太古の昔から変わらぬ本能があるとしたら、それは「火への憧憬」ではないでしょうか。
変幻自在に織りなす炎。時には力強く、時にはオーロラのように彷徨い、やがて青白い炎へと力尽きていきます。
リビングの片隅で揺れている炎を眺めているときは、何かを考える訳でもなく、自身をフラットにさせてくれる時間なのです。
火、炎には不思議な力があるような気がします。