インタビュー

湿気で髪の毛がうねうねと踊る季節がまた巡ってきましたね。
みなさま、お変わりなくお過ごしでしょうか。

南房総の家の梅を収穫して漬けるという梅仕事を、無事終えています。今年は10キロ程度の収穫。

昔は、まず「めんどくさいなー」と思ってから「でもやるか」と腰をあげて「ああ、やっぱりやってよかった!」と感じていた季節仕事のあれこれを、今では頭より手が先に動いていつの間にか作業が終わっているというかんじです。

いちいち大騒ぎ、大喜びしていた頃がちょっと懐かしい。あれは目が♡の恋愛期間だったな。そういうフレッシュな気持ちが長続きするのが二拠点生活の特徴だけれど、ここにきてとうとう、地味な愛情に変化してきました。
そりゃそうだ、もう17年目だもんな。

かつてはこの風景に「また竹がはえる季節だよー」とゲンナリしてたなあ。

さて、そんなわけで最近、わたしの身にちょっとした変化がありました。
実はですね。

今月から「うちの地区」の正式な区民となったんです。

……え?正式な区民てなに?
と思われた方へ。

正確には「正会員」と言った方がいいのかもしれません。
一般の住民の方はみんな地区協議会の会員で、我が家は週末しかいないということでこれまで「賛助会員」とみなされていました。(他にもそういう方はおられます。)賛助会員は区費が減免されたり、役員が免除されたり、出席しないでいい会合などがあったりと負担軽減されるという次第。「全部出てたら大変だからよぉ」と地域の計らいです。

で、何でこのタイミングで正式な区民になったかと言えば、ええと、、、話の流れ、なりゆきです。

先日、地域作業(草刈り)が終わってご近所さんと与太話をしていた時に、なんとなくそのタイミングが訪れました。

「この後もまだ共同作業あるんですよね?わたしもお手伝いしますよ」
「いいって。未織さんは出ないでいいやつだから。それより自分ちの草刈りした方がいいよ」
「たしかにうち草ぼーぼーだけど(笑)お手伝い、できませんかねえ?」
「そりゃ区民になれば……」
「じゃあ、なりますよ」
(みんな、ちょっとシーンとなる)
「えー??いやいや、大変だべ?」
「ここの区民が増えるっていうのはありがてぇけどよ、、」

引き止められている空気を感じて「ご迷惑かけちゃいますかね」と聞くと「それはない。でも、よく考えてから決めていいから」と言われました。

区民になるってそんなに大変なのか?

午後、区長さんに「話がある」と呼ばれました。
集落センターに行くと、役員の方々が長机の向こうに座っています。
区長さんは恐縮した顔で切り出しました。

「なんというかその……正直言って、区民になることで馬場さんが受けるメリットは、あんまりないかもしれないですよ」

わたしは、へ?となりました。
メリット。まったく想定していなかった言葉です。

「まず、お金の負担が今までよりかかります。で、出るべき会合や共同作業も増えます。持ち回りで役員をやるにもなります。もちろん、重要な役にならないよう塩梅できますけど。会合も出られない時は欠席して大丈夫です。でもね、よく考えてから返事してもらっていいですからね。一応説明すると、会合のある月は……」

丁寧に説明してくれる区長さんの言葉を聞きながら、わたしは「メリットって何だろう」と考えていました。

楽できる?
儲かる?

確かにそれはないだろうな。
負担が増えて、お金が出ていくんだから、デメリットが増えるということだよな。

でも自分が暮らしている地区の会合に出られたり、ご近所さんと与太話をする時間が長くなったり、共通の話題が多くなることは、わたしにとってはメリットなんですよね。お金も手間もこれまでよりかかるけれど、「自分だけ楽して得してラッキー」という感覚はもはや1mmもないことに気が付きます。

むしろ心のどこかで、集落のみなさんに甘えているなあ、とずっと思っていました。わたしが関わっている作業以外はお任せしていて、おかげで我が家の生活も成り立っているな、と。しかも「誰かがやってくれている」じゃなくて「〇〇さんと〇〇さんと……」と顔が見えますからね。

顔が見えない地区だったら、区民になりたいとは思わなかっただろうな。

いわゆるメリットはなくても区民になろうと思えるのは、うちの集落は同調圧力や強制圧が高くないからだと思います。

「出てもらわなきゃ」
「みんなやってるんだから合わせてもらわないと」
「休まれると負担が増える」
「こっちも高齢でキツいんだ」

などとこれまで誰からも1度も言われず、満を持して区民になりたいと申し出た時も「あなたにメリットがないですよ」と伝えてくる。どれだけお人よしなの!

これって、南房総のうちの集落にたまたま“いい人”が集まっているからでしょうか?
わたしはどうも、そういうもんじゃない気がしています。
だってさ、固定的に“いい人”なんてなかなかいませんから。ヒトは“いい面”と“悪い面”があって、どちらがより出やすいかは環境によって多分に左右されるもの。

うちのようなちいさな集落が、長く、美しく続いてきたのは、ヒトの “いい面”を引き出し合っていく知恵があったからじゃないかな。少人数の同じメンツで暮らしを続けていく時、どうすればトラブルがないか、気持ちが軽くなるか、みんなが快く共同作業できるかなど、体得してきた歴史があるのだろうなと思いを馳せます。

そうした知恵の集積を感じる時、生身の生きものとして生きる楽しみをハッキリと自覚します。Chat GTPに凌駕されない領域があることも。

いろいろな暮らし方がある時代に、その地域に関わった人たちがみんなで課題を共有しつつ楽しく責任を担う方法はないもんかなと思っています。里山の暮らしは自然とのやりとりがすごく多くて大変な部分もありますが、メンツが好きで作業時間が楽しければむしろ「はなしのネタになっぺ?」てやつです。

これまでいろいろおんぶにだっこだった部分も教えてもらいながら、わたしもちょっとずつ引き継いでいこっと。

さて。
話は変わりますが。
実は最近もうひとつ、身の上に変化がありました。

犬を家族に迎えました!!

ラブラドールレトリバーの黒、メス、生後4ヶ月です。
頭がアイスのピノみたいだから「ピノ」と名付けました。
南房総デビューはこれからです!一緒に行ける日まであとちょっと。好きなだけ駆け回れて、穴掘ってもよくて、海でも遊べるよ。すごくすごく楽しみです。

ピノです。

わたしの誕生日にピノはやってきました。
実はその頃、ちょうど仕事でもプライベートでもいくつか困難を抱えるタイミングで、犬を迎えるのは先延ばしにしようかとも思ったんですよね。でも夫に「いいタイミングなんて、待ってても来ないよ。人生常に何かしらある。決めた時がタイミング」と背中を押された次第。
本当にごくごくたまに、いいことを言うんだよな。
そしてこのセリフはかつて2度ほど言われたことがありました。こどもを生むかどうか考えていた時と、二拠点生活を始められるか考えていた時。笑。

そうしてやってきたピノとの暮らしでは、本当にいろいろな発見があります。
(すでに犬を飼っている人にとっては、きっとつまらない話です)

まず、他の犬や飼い主と突然仲良くなれるんですね。
人間関係のいろんな距離感をすっとばして「わああああ!ピノちゃん!」といきなり親しくしてもらえることの多さったら。そういう風景は日常でよく目にしていたはずなのに、当事者になると「犬コミュニティへの入会」感にびっくりです。

で、自分も他の犬が気になり出すんですね。
まちを歩くすべての犬たちに意識が行くようになりました。犬の種類や散歩の仕方、犬の興味の所在、飼い主のふるまいなどすごく見えてくるようになります。見えなかった世界が見えるようになるのって本当に面白いですよね。

ピノはこどもたちが気になってしょうがいないみたい。

さらに、まちを犬の散歩視点で見るようになりました。
道幅、車の量、落ちているゴミ、一休みできるベンチ、他の犬たちと会える場所、広やかな場所。
と、そういう視点で南房総を眺めれば、耕作放棄地がドッグランに見えてきます。空き地って貴重だなあ!!と突如草刈りへのモチベーションが高まります。存分に駆け回ってもらいたいじゃない?

そういえば獣医さんに「キャンプなどにも連れていくかんじですか?」と聞かれて「南房総にも自宅があり、そこに一緒に通います」と伝えたら「別荘ですか、いいですね」と言われました。

きっと先生の想像と違うだろうなあ。

外から眺めていても分からないことがたくさんある。
当事者になってこそ、分かる世界がある。
犬も、猫も、ニホンミツバチも、南房総での里山暮らしも!

さあ、これから二拠点生活with猫&犬の楽しみ方を追いかけていこうと思います。正式な区民としての暮らしの醍醐味もあるでしょう。まったく、生きているといろいろあって飽きないですね。

次回もまた、お会いできますよう。

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