グローバルの超富裕層がどのように別荘やリゾートを活用しているのか、これまで5回にわたってご紹介してきました。最終回である今回は、どのような年間スケジュールに沿って超富裕層たちがバケーションを計画しているのかについてご紹介します。イベントを軸に計画するスケジュール、いわゆる「ハイライフ・カレンダー」です。
世界のビジネスを動かす経済イベント
仕事柄、シンガポールや香港、ドバイを中心としてグローバルの超富裕層が集まる様々なカンファレンスに参加しますが、超富裕層たちの関心や動向がグローバルでとても似通ってきていると感じます。出身地こそ違えど、ほとんどの人が似たような教育を受けて、似たようなビジネスモデルや投資スタイルにより富を拡大していることがその背景にあると見ています。
グローバルで超富裕層の行動形態が似通ってきていることで、こうした人が集うハイライフ・カレンダーに載っているイベントも、併せて隆盛を極めています。こうしたイベントは大きくビジネスや経済関連のものと、アートやスポーツ、エンタメなど文化的なものに分けられます。まず「ダボス会議」や「ミルケンインスティテュート」に代表される経済・ビジネスイベントから紹介していきます。
日本で最も知名度が高いのは「ダボス会議」でしょう。こちらは世界経済フォーラムという国際団体の年次総会が、毎年1月末にスイスアルプスのリゾート地であるダボスで開催されることからそう呼ばれています。ただ、開催場所からもともと欧州のエリートたちが中心で、トランプ政権になってから米国の政財界の参加者も減ってきていることから、その影響力には陰りが見えます。
「ミルケン・インスティテュート」は、日本での知名度こそ劣りますが、世界のビジネスを牽引する米国のエリートたちがこぞって集結することもあり、世界で最も影響力の大きい経済イベントといえるでしょう。その名の通りジャンクボンドを開発して現在のプライベート・エクイティ(PE)ファンドが隆盛する礎を築いた伝説の金融マンであるマイケル・ミルケンが主催するカンファレンスです。そのため、ヘッジファンドやPEファンドの大物や、大手投資銀行のトップがこぞって集まります。こうした金融界の重鎮たちが他の業界のビジネスの大物や政権幹部と議論を戦わせるカンファレンスが多数あることで、開催期間中は連日ブルームバーグやCNBCといった米国の大手経済メディアのトップニュースとして取り上げられます。
残念ながら、私自身上記の両イベントに参加したことがないので、参加者の知り合いからの伝聞となりますが、「ミルケン・インスティテュート」の年次総会では人類全体の富の約30%にあたる30兆ドル(約3,400兆円)の資産運用に携わっている金融界の大物やテック企業の重鎮、さらには政権幹部がこぞって5月頭のLAに集まります。世界の富豪ランキングの上位400人の約半分が参加することからもその影響力がうかがえるでしょう。
米国でもう1つ重要な経済イベントを挙げるとすれば、投資銀行アレン&カンパニーが7月にアイダホ州にある避暑地サンバレーで開催するカンファレンスでしょう。このイベントは上記の両イベントよりもさらに参加者を厳選したクローズドなイベントです。その分、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、さらにはジェフ・ベゾスなど米国のビジネス界の真のトップたちが集まり、大きなディールを相談することで知られています。ジェフ・ベゾスが個人資金で高級紙ワシントン・ポストを買収することを決めたのもこのカンファレンスでの出来事とされています。
超富裕層たちが楽しみにしているスポーツイベント
次に、スポーツに関するイベントですが、こちらも毎年グローバルの超富裕層たちがこぞって参加するものが色々とありますが、その白眉は毎年5月に開催される「F1モナコGP(グランプリ)」でしょう。モナコという開催地のハイエンドなイメージと、年に3日だけのレースという貴重さから開催期間中の宿泊施設は高騰し、最も優雅な観戦スタイルであるマリーナにクルーザーを泊めての観戦は、ヨットの停泊料だけで10万ドル(約1,100万円)以上もかかるといわれています。
そして、「F1モナコGP」に次いで超富裕層たちが集まるようになってきているのが、私が暮らすシンガポールでの「F1シンガポールGP」です。毎年9月の第3週に開催され、公道を用いた唯一のナイトレースとして人気を集めています。シンガポールという超近代的な都市がライトアップされる中、300㎞以上の超高速でF1カーが疾走する様子は、私もビジネスパートナーに招待してもらって一度VIP席から観戦したことがありますが、最高に贅沢な景色でした。
F1以外のスポーツで超富裕層たちが集まるスポーツイベントは競馬です。
もちろん、伝統的なフランスの「凱旋門賞」や米国の「ケンタッキーダービー」も根強い人気ですが、グローバルで最も華やかな競馬イベントとなっているのが毎年3月末に開催される「ドバイワールドカップ」です。ドバイ首長であるシェイク・モハメッドは馬主として世界屈指の権勢をふるっていて、競馬好きが高じて欧米やアジアからトップホースを集めて真の世界一を決める、世界最高クラスの賞金額を誇るワールドカップを開催しています。開催地であるメイダン競馬場は、周囲に住宅やリゾートも一体開発となった巨大プロジェクトで、総工費は73億ドル(約8,200億円)というところからも、いかにシェイク・モハメッドがワールドカップへの思い入れが強いかがわかります。
スポーツイベントではないですが、アスレティックな超富裕層がグローバルで増えていることもあって、ヨットショーが人気となっています。ドバイはこの分野でも存在感を発揮していて、毎年3月頭に開催されるヨットショーでは大きなヨットがこれでもかと展示されていました。私はシンガポールもドバイもヨットショーを見学したことがありますが、ヨットの豪華さでは断然ドバイだと感じました。
ただ、関係者に聞くとF1と同じくヨットショーにおいてもモナコがダントツで豪華で、1億ドル(約110億円)以上のヨットが何艘も展示されるとのことです。モナコの年間スケジュールでも上記の5月のF1と、9月のヨットショーは最も盛り上がる2大イベントのようですから数年内にどちらも訪れようと計画しています。
超富裕層たちの共通言語であるアート
最後に、アートに関するイベントを紹介したいと思います。もちろん、今でも3月と10月に開催されるパリコレを筆頭としてファッションイベントにも多くの超富裕層がつめかけます。一方で、若い起業家を中心としてファッションに関心が薄い超富裕層も増加してきていることからか、アートへの関心はグローバルで高まっています。今、文化的なイベントで最も勢いを感じるのは、アート関連のものです。
「サザビーズ」や「クリスティーズ」など大手オークションハウスが、ロンドンやNY、香港で開催するオークションに加えて、最近存在感を発揮しているのが、スイス北西部の都市バーゼルで開催される世界最大級のイベント「アートバーゼル」です。
毎年6月に開催されるこのイベントにはレオナルド・ディカプリオやレディ・ガガなどの米国のセレブもプライベートジェットで駆けつけることで知られています。現代アートへの世界的な関心の高まりを受けて、同じブランドを冠したイベントが3月に香港、10月にマイアミでも開催されるようになり、どちらもとてもにぎわっているようです。
「アートバーゼル」の3つのイベントはどれも数百のギャラリーがそれぞれ選りすぐりの作家の作品を持ち寄るので,
1,000人以上の作家の作品が一堂に会すことになります。その中で上位20ほどの注目アーティストや作品は広く喧伝されますから、イベントに参加した超富裕層だけでなくグローバルのパトロン候補にリーチできます。
現代アートは人気が高まれば、10年で数十倍から数百倍の値上がりも珍しくありませんが、こうしたイベントを通じてこれまでの現代アートの文脈に沿った新たな作家・作品が見出されて、それがグローバルなトレンドとなることで、こうした値上がりが生み出されています。
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このように、年間を通じて間断なく、様々なジャンルの超富裕層が集まるイベントが世界中で開催されていて、年間通じたハイライフカレンダーを形成しています。そして、ビジネス・経済以外のジャンルのイベントでも頻繁に顔を合わせることで、グローバルの超富裕層同士のネットワークが強化され、次世代のビジネスが活発に形成されているのです。
以上で私の全6回の連載は終了となります。ここまでお付き合いいただきまして大変ありがとうございました。「超富裕層」がテーマということで、いささか現実離れした話題もありましたが、その中心にあるのは、誰しもが持つ、より上質な生活への思いです。超富裕層の生活スタイルや考え方が、少しでもみなさまのお役に立てば、と思っています。