暮らし術

グローバルの超富裕層たちがどのような別荘やホテルライフを送っているのかという、主にリゾートに焦点を当ててきましたが、今回は海外移住事情についてご紹介します。

移住地としても根強いハワイの人気

海外移住について調査をしているロングステイ財団によると、2017年まで12年連続で海外移住地として人気ナンバーワンとなっているのがマレーシアです。10年間滞在ができるMM2Hビザが50歳以上の人であれば1,000万円弱の投資で取得できるお手軽さが人気ですが、滞在先での生活レベルやソーシャルイベントの少なさから、超富裕層の移住先として選ばれることはまずありません。同調査で7年連続2位となっているタイも同様です。

この調査の3位にも入ってきていますが、海外の別荘を取得する場として1番人気であるハワイは、引退後に移住をする場所としても超富裕層に高い人気を誇っています。別荘地の取得と異なるのが、移住先としては超富裕層にはオアフ島以上に、ハワイ島やマウイ島などの離島の評価が高いことです。
ハワイ島にはフォーシーズンズ、マウイ島にはリッツカールトンと、グローバルの超富裕層からの強い支持がある5つ星リゾートホテルがあり、ホテルのサービスが受けられるヴィラ(一軒家)タイプのレジデンスも用意されていて、超富裕層の移住先として人気となっています。ハワイ島のフォーシーズンズは以前は鹿島建設により所有されており、マウイ島のリッツカールトンのゴルフコースは現在ユニクロの柳井社長により所有されていることからも、両リゾートが日本人リッチたちにも人気であることが分かります。

ハワイ島では、フォーシーズンズと同等かさらに上回る豪華さのレジデンスとゴルフコースを備えた会員制コミュニティ「クキオ」が開発されており、敷地がヘクタール単位の広さで10億円以上もするレジデンスも続々と売れています。ここまでの価格帯の物件を購入しているのはやはり米国人が中心で、話題になっているだけでもマイケル・デルやケン・グリフィンといったITや金融で世界的な大富豪になった人物が物件を所有しています。
特にマイケル・デルはビジネスの一線からは退いており、年間のかなりの時間をハワイ島で過ごしているようです。引退後に移住する予定の物件として、ハワイ島のフォーシーズンズホテルの敷地内のレジデンス所有している日本人の知り合いによると、クリスマスシーズンにはハワイ島の空港にプライベートジェットが多数並んで壮観とのことです。
証券会社を創業してビリオネアとなったチャールズ・シュワブにいたっては、ゼロから自分とその仲間たち専用の超高級ゴルフコース「ナネア」を、信頼しているコース設計士の思い通りに作らせることまでしています。ハワイ島はゴルフやトライアスロン、さらにはマリンスポーツなど様々な種目のスポーツを、世界最高レベルで楽しめる場所ですから、アスレティックな富裕層の方はご紹介した施設を視察して、引退後の生活を想像されてはいかがでしょうか。

 

投資家永住権がある主要国

日本人富裕層が上述したハワイ島に移住する際はEB-5ビザなど、いわゆる投資家永住権を利用することが一般的です。EB-5は、指定された業種において50万ドル(約5,500万円)以上の投資を行い少なくとも10人以上の雇用を生んだ人が申請できるグリーンカード(米国の永住権制度)です。
ただ、これは米国に限らず世界的な現象ですが、中国人を中心としてこうした投資家永住権を利用して海外に移住する超富裕層は増えており、上記のEB-5も2015年には9月末までの期限にもかかわらず5月にその年の枠を使い果たして、史上初めて募集を停止する事態にまでなっています。EB-5承認者の実に80%以上が中国人となっていて、中国との貿易交渉の材料として、米国議会では現在EB-5の投資額を100万ドル以上に引き上げるなどの引き締め策が検討されています。

中国人富裕層の投資家永住権を利用した移住により、不動産価格の高騰やローカルコミュニティの変容が受け入れられないとして、引き締めに動く流れは米国にとどまりません。
カナダでは2014年にこちらも中国人富裕層の流入が増えすぎたことを主因として、投資家永住権は打ち切られましたし、オーストラリア・ニュージーランドでも同様の理由で投資家永住権の必要投資額はそれぞれ500万豪ドル(約4億円)、800万NZドル(約5.9億円)にまで引き上げられています。

オーストラリアについては、上記の金額を政府から指定された債券などの金融商品に投資した上で4年間にわたって毎年160日はオーストラリアに滞在する必要がある一方、ニュージーランドでは永住権の申請期間である3年間で合わせて90日弱の滞在で永住権を取得できるため、私たちのお客様の中ではニュージーランドの永住権の方が人気となっています。

シンガポールにも投資家永住権制度があるにはあるのですが、経営している企業の売上が直近3年間で平均して5,000万シンガポールドル(約41億円)以上あり、さらに指定されたファンドなどに250万シンガポールドル(約2億円)以上投資するなど、引退層にとっては高いハードルとなっています。

今年の夏はオーストラリアのサンシャインコーストに滞在したのですが、写真にあるような海沿いの大邸宅が1~2億円で購入でき、同様の物件をシンガポールのセントーサ島で購入した場合は10倍以上の価格がすることからシンガポールは引退後の移住先としてはあまり魅力的に感じられません。

専用のマリーナを備えた海沿いの大邸宅が、オーストラリアのサンシャインコーストではシンガポールの10分の1以下の価格で購入できる

専用のマリーナを備えた海沿いの大邸宅が、オーストラリアのサンシャインコーストではシンガポールの10分の1以下の価格で購入できる

私のように現役世代であれば、規制が少なく税率も低いために移住先としてシンガポールは魅力もありますが、引退後の移住地として考える場合には実際に数週間単位で滞在する中でも、オーストラリアやニュージーランドの方がはるかにコスパが良く、高いクオリティの生活を楽しめて魅力的だと感じています。
このような観点から、私の周りの超富裕層も現役時代に稼ぐ場所と資産を運用する場所、子育てをする場所、さらには自分たちが引退する場所として、それぞれ最適な地を世界中から厳選して、使い分けるケースが増えてきています。

 

積極的に超富裕層移住者を誘致すべきかどうか

超富裕層のリクエストを受け、世界各地で投資家永住権の取得プロセスをサポートしていると、日本もこうした流れを取り込むべきではと感じます。この連載の1回目で中国人の大富豪が軽井沢に100億円以上の資金をかけて巨大な別荘を建設していることを紹介しましたが、私の知り合いがこの別荘を頻繁に訪れて、継続的に投資をして益々すごい施設になっていることをSNS上で紹介しています。山を一つ丸ごと使う勢いで土地を取得して敷地内には天然の川が流れ、人間国宝が腕を振るった日本家屋に茶室まで建てられていて、なんと10キロ以上の専用トレッキングコースまで備えています。この別荘の所有者は中国でもトップ10に入る大富豪ですが、ここまでの施設を作っているのは中国本土以外では日本だけでしょう。
他にも軽井沢にはビル・ゲイツが別荘を所有していると噂されていますし、軽井沢のように日本の美しい自然においしい食事を楽しめて、かつ東京のような大都市からわずかな時間でアプローチできる地は世界の大富豪から人気となっています。

こうした人気を活かして、一定額以上の投資を日本に行った外国人には永住権や居住ビザを付与することで、投資を拡大してくことは日本経済全体へもインパクトの大きい活性策となるでしょう。ここで参考になる制度を購入しているのが英国です。英国では100万ポンド(約1.4億円)を英国内の金融機関に預けて、毎年一定期間滞在することで5年後に永住権を申請できますが、500万ポンド(約7.2億円)以上の預け入れで3年後に、1,000万ポンド(約14.3億円)以上の預け入れで2年後と、投資額に応じて永住権の申請期間を短くするという、経済への貢献度次第でどんどん優遇する分かりやすい永住権制度を導入しています。

一等地には何十億円~何百億円もする外国人の移住者に人気のコンドミニアムが続々と建設されている

一等地には何十億円~何百億円もする外国人の移住者に人気のコンドミニアムが続々と建設されている

上記で紹介したオーストラリアも、先日クイーンズランド州政府の永住権制度担当者と話した時に、米国人に絞って5,000万豪ドル(約40億円)以上の投資をすれば、通常の4年間に対してわずか1年で永住権を申請できる制度をテストしていると聞きました。一度、移住してもらえれば移住時の巨額の投資に加えて、毎年大きな金額の消費に雇用創出まで期待できる超富裕層を、主要国の多くは様々な優遇策を準備して貪欲に取り込もうとしています。

もちろん、こうした投資家永住権の設定にはデメリットもあり、上記のカナダのように国民からの反発が強くなり打ち切られるケースもあります。ただ日本であれば諸外国よりもさらに投資額のハードルを高く設定しても、日本に長く滞在できる権利を望む外国人富豪の数は少なくありません。

はじめはハードルを高く設定して受け入れ人数を絞って、不動産価格高騰など地域経済への悪影響を最小限にとどめ反応を見ながら制度を調整していけばいいでしょう。日本も外国人の観光客の取り込みではかなりの成果が出てきていますが、普通の観光客の数百倍・数千倍の経済効果が期待できる外国人超富裕層の取り込みも積極的に行うべきタイミングにきていると見ています。
 

※本記事は、岡村 聡氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
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