暮らし術 ちょっぴり足を伸ばして、西伊豆・戸田(へだ)まで行ってみませんか?

西伊豆・沼津市戸田(へだ)地区は、近年「深海魚の聖地」として注目を集めています。
ゆっくりと時間が流れる田舎の漁港。緑深い伊豆の山々を背に、美しい湾曲を描く御浜岬。まるで絵に描いたような里山や里海の風景が広がっています。市街地の喧騒とは無縁。古い港町の街並みや裏路地は昔懐かしく、どこか日本の原風景を感じさせます。
熱海などの東伊豆地区は首都圏に近いため、商業施設や生活に便利なサービスも多く、都会暮らしと同様の生活が可能。首都圏へ通勤している方や田舎暮らしが初めての方にぴったりの地域ですが、西伊豆地区にある戸田はその正反対の環境と言えるでしょう。
しかし、この美しい自然と土地の人々のあたたかさに魅せられ、週末に足しげく通う“ツウ”な旅行者のほか、移住を希望する方も少しずつ増えてきているのです。

 

深海魚を食べて、知って美味しい戸田

戸田地区は、沼津市街から車で1時間ほどかかる場所にあります。水深2500メートルを誇る最深の海・駿河湾に面し、昔から深海魚漁がこの地の人々の暮らしを支えてきました。

深海魚の代表といえば、世界最大の甲殻類・タカアシガニ。1960年代に戸田の旅館がタカアシガニ料理を始めて以来、ご当地のシンボル的な存在になっています。

魚重食堂で一番人気の「深海魚の刺身定食」(内容は一例)。写真の魚はゲホウ

魚重食堂で一番人気の「深海魚の刺身定食」(内容は一例)。写真の魚はゲホウ

昨今では、ユニークな見た目のメギス(沖ギス)、メヒカリ(トロボッチ)、ゲホウ(トウジン)などの深海魚が、タカアシガニをしのぐ人気に。しかし、これらの魚は鮮度の低下が早く、一般の流通に乗ることがめったにありません。最近は直送で首都圏に運ぶ飲食店もあるようですが、まだまだ希少で、おもに高級料亭へ高額で卸されている場合が多いそうです。冷蔵設備が整っていなかった頃は、地元だけで食べられている魚だったのです。

現在、戸田地区で深海魚が食べられるお店は7軒あります。タカアシガニを看板メニューとしている店が多いのですが、近頃のブームで「深海魚料理を食べたい」というお客さんが増えたのだそうです。

丸吉食堂オリジナル・深海魚の天丼「どん底丼」。ボリュームたっぷりの天ぷらが二層になっている

丸吉食堂オリジナル・深海魚の天丼「どん底丼」。ボリュームたっぷりの天ぷらが二層になっている

じつは、深海魚には禁漁期間(毎年5月10日頃~9月10日頃まで)があります。この期間でも深海魚料理を食べることはできますが、刺身ではなく揚げ物などで食べることができるそうです。また、悪天候や満月で船が出せない時も同様。深海魚の種類によっては、水揚げのない時があるので、お目当ての魚がある場合はお店に確認してからお出かけください。

 

沼津港の深海魚水族館よりディープな博物館

止まることを知らない深海魚ブームに乗って、2017年7月に「駿河湾深海生物館」がリニューアルオープン。深海魚好きで有名なココリコの田中直樹さん、猿渡敏郎(東京大学大気海洋研究所海洋生物資源部門助教)さん、サイエンスライターの山村紳一郎さんを監修者に迎え、親しみやすく温かみのある博物館になりました。

小さな子どもでもわかりやすく楽しい展示

小さな子どもでもわかりやすく楽しい展示

各所に田中さんが登場する解説ビデオが置かれ、魚の特徴や魅力を語っています。彼がいちばん力を入れたというサメのコーナーは圧巻。大人気のラブカのほか、希少なサメ「オシロザメ」のはく製が展示されています。これは新種登録の際に論文記載された個体で、ほかに液浸標本としても2体を展示。合計3体の個体を展示している施設は、ほかにないのだそうです。また、常設展示では国内初となるソコボウズの液浸標本も展示。全長1.2メートルの迫力満点のはく製を間近で見ることができます。

沼津港にある「深海魚水族館」とは違い、動かない「はく製」ばかりの展示ですが、より深い知識に触れることができる貴重な場所。水族館に行ったなら、次はぜひ「駿河湾深海生物館」も訪れてみてください。
また、併設の「戸田造船郷土資料博物館」では、日本で初めて洋式帆船が建造された場所・戸田の歩みと、ロシアとの交流の歴史が学べます。歴史ファン、とくに幕末好きにはたまらない展示もあるので、こちらも必見ですよ。

一方、港には「ヘダトロール」という深海魚や戸田の情報を発信する施設も完成。深海魚の標本や書籍などのほか、イベントの開催や水揚げした深海魚も不定期で展示されています。

深海魚を触ったり写真を撮ったりすることができるイベントも行われています

深海魚を触ったり写真を撮ったりすることができるイベントも行われています

 

絶景がいっぱい!美しい富士山を眺めてリフレッシュ

深海魚の次に人気なのは、やはり地区内のさまざまなポイントから見る絶景でしょう。
まずは「煌めきの丘」。この丘は、太陽の位置によって海面がキラキラと煌めいて見えることから名付けられました。正面に富士山を臨み、日没には駿河湾に沈みゆく美しい夕陽を見ることができます。

煌めきの丘からの景色。見えにくいですが、正面に富士山が見えます

煌めきの丘からの景色。見えにくいですが、正面に富士山が見えます

そして「出逢い岬」からは、戸田港とそれを緩やかに包む御浜岬を眺めることができます。正面に駿河湾が広がり、右手には雄大な富士山もよく見える、絶好の撮影スポットです。また、御浜岬の付け根にある御浜岬公園は平成7年に「都市景観大賞」を受賞していて、春~夏にかけて桜やスカシユリ、浜木綿(はまゆう)などたくさんの花が開花します。季節ごとに訪れる旅行者も多いそうです。

出逢い岬にあるフォトスポット。円のちょうど真ん中に富士山が入る

出逢い岬にあるフォトスポット。円のちょうど真ん中に富士山が入る

そのほかにも「夕映えの丘」「瞽女(ごぜ)展望台」など素晴らしい景色を見ることができる場所がいくつもあります。大海原と大自然が生み出す絶景を見れば、日頃の疲れも一気に吹っ飛んでしまいますよ。

 

ここだけのお土産も温泉もあります

お土産の購入は「道の駅くるら戸田」がオススメ。

西伊豆方面のお土産もあるので、ほかで買い忘れてしまっても大丈夫

西伊豆方面のお土産もあるので、ほかで買い忘れてしまっても大丈夫

毎週金曜日は「くるランチ」、毎月第2日曜日は「リアルマルシェ」のほか、音楽イベント「ごぜライブ」を開催するなど、バラエティに富んだ催しが目白押し。その日しか食べることができない料理も販売するので、イベントは毎回見逃せません。まさに何度でも「くるら(方言で「来るでしょう?」の意)」。旅行客だけでなく地元に住んでいる人も楽しめる、何度行っても飽きの来ない場所なのです。
また、日帰り温泉施設「壱の湯」が併設されているので、運転の疲れを癒すのにぴったり。道の駅の駐車場で車中泊をする人も見かけます。

温泉といえば、戸田温泉の源泉をセルフサービスで持ち帰ることができる「温泉スタンド」もあります。
そこは一見、ガソリンスタンドのような場所。200リットル100円で購入可能で、地元の方は軽トラックの荷台に大きなポリタンクを積んでやってきます。言わば「温泉のテイクアウト」ですね。その隣りには、温泉スタンドでお湯を購入して使う、犬用のシャワー付きお風呂「ドッグバス」もあります。ワンちゃんも飼い主さんも、お散歩タイムが楽しくなりそうなスポットです。

 

不便さが、なぜか“ツウ”を惹きつける

西伊豆方面には鉄道が通っていないので、戸田まで行くには、車(自家用車かレンタカー)か路線バス(修善寺駅からと沼津駅から)の二択になります。渋滞を避けたいという方は、沼津港から出ている高速船や清水港からフェリーを使って訪れるのも素敵ですよ。

灯台と富士山のコラボレーション。とてもドラマティックな風景です

灯台と富士山のコラボレーション。とてもドラマティックな風景です

戸田には大きなショッピングセンターやホームセンターがないので、住民は必要なものがあれば沼津市街へ買いに出かけます。コンビニエンスストアは2軒ありますが、どちらも24時間営業ではありません。
そのうちの1軒「海竹山竹ストア」では、地元で取れた新鮮な魚や野菜、時には深海魚を使い、手作りの惣菜や弁当を作って販売しています。どこか懐かしく家庭的な味付けが人気を呼び、ご近所の年配者や周辺で仕事をしている人、さらに、ストアの評判を聞きつけた旅行客も買っていくそうです。

少し歩けば何でも手に入り、あふれるほどの品物に囲まれて暮らしてきた人には、不便さを感じることがあるかもしれません。しかし、住み慣れてくると「本当に必要なものだけがそばにある暮らし」が快適になり、日々を丁寧に暮らすことが愛おしくなっていくといいます。また、最大の行事「戸田港まつり」や季節ごとのお祭りなどでの地元の方々との触れ合いは、忙しい毎日ですり減った心をきっと豊かにしてくれるはずです。

不便だけれど、ここにしかないものがある。
そんなワン・アンド・オンリーがあふれる街。百戦錬磨の旅慣れた大人が一度訪れるとハマってしまう、それが戸田の魅力のなせる業なのです。
 
> 過去の記事はこちらから
 

※本記事は、小林ノリコ氏の知識と経験にもとづくもので、わかりやすく丁寧なご説明を心がけておりますが、内容について東急リゾートが保証するものではございません。
※本記事の情報は、公開当時のものです。以降に内容が変更される場合があります。また、弊社事業所名が現在の名称と異なる場合があります。

関連記事

リゾートさがしガイドブック集