暮らし術

東京・軽井沢・福井の3拠点を移動しながら暮らしていると、移動している時間を何に使うのか?ということが、ささやかな課題になります。

鉄道や飛行機の旅の途中、まわりを見渡すとよく見かけるのは、ノートパソコンを取り出して座席で仕事をしている人。私も締め切りが迫っている時など急ぎの場合には、原稿を書いたり講演の投影データを作ったりすることはあるのですが、これは実はあまり具合が良くない。なぜ良くないかというと、インターネットの回線が安定していないからなのです。文章を書いていてちょっと引っかかる用語があり、グーグル検索で調べようとすると、ネットがうまくつながらずにムダにリロードを繰り返す。こういう場面は多くの人が経験あるのでは。

最近は日本航空が国内線で無料のネット接続サービスを提供しており、飛行中の機内でもネットにつながるのが当たり前になってきました。しかしだからと言ってスムーズかというとそんなことはなく、利用者が多ければつながりにくくなるし、けっこうイライラすることが多い。これは新幹線でも同じですね。

そこで私は移動中にPCワークはなるべく避け、リクライニングシートを倒して「読書と映画の時間」と割り切ることに決めています。

Hands of man browsing gadget in aircraft

10年ぐらい前、まだ電子書籍が普及していないころは、移動生活の読書は大変でした。とくに海外に行く場合、向こうで日本語の本が入手できないのを心配し、スーツケースに読みきれないほどの数の本を詰め込んでいったものです。本の詰まったスーツケースはずしりと重くて運ぶのがつらかった…。
しかし最近は、新刊でもたいてい刊行後すぐに電子化されるようになり、悩みは解決しました。私の使っているKindle Oasisはバッテリーの持ち時間が良く、バックライトもあり、そして軽い。3G回線にもつながるので、どこにいる時もその場で電子書籍を購入できます。あまりにも気軽に買えてしまうため、仮想のブックシェルフに大量に未読本が積み上がってしまうのが悩みの種ですが。

映画やドラマはどうでしょう。もはやDVDの時代は終わり、ネット配信が当たり前になりました。私が使っているのはAmazon VIdeoとNetflixで、この二つのサービスの利点のひとつとして、作品によってはタブレットやスマホなどに保存しておけることがあります。事前に好みの映画をダウンロードしておけば、視聴する際にはネットがつながらなくても大丈夫。飛行機の機内でも、トンネルだらけの新幹線に乗っている時でも、気にせずに映画を見続けることができます。
昨年、キューバを旅行する機会があり、首都ハバナではホテル周辺など一部を除くとまったくネットが使えませんでしたが、民泊で借りた部屋に泊まって食後のゆっくりした時間などに映画を堪能することができました。

私はいつも使っているAndroidのタブレットに、観たい映画を5〜6本ぐらいは常時ダウンロードしてあります。出先で時間ができたら、この中から気分に合わせて映画を観る。東京から新大阪まで新幹線で行くと、「のぞみ」でだいたい2時間30分。映画を一本観るのにはちょうど良い間合いです。リクライニングを少し倒して映画を楽しみ、飽きてくると外の流れる景色を眺めるというのが、私の移動の時のささやかな楽しみなのです。

 
さて、この連載では3拠点生活の楽しみについてあれこれ書いてきました。でもこういう生活を続けていて一番感じるのは、3拠点によって人間関係の面白さが増していっているということ。

東京には東京の人間関係があり、軽井沢には軽井沢の人間関係があり、福井には福井の人間関係があり、その中の人間関係の網の上で生きているような感覚になっています。普通のライフスタイルだと、自分の会社の中だけで関係がまとまってしまっている人は少なくありません。私のようなフリージャーナリストのような仕事でも、出版社の編集者や同業者と毎晩飲みに行ってるだけ、というような人もいますから、けっこう世の中は閉鎖的なんですよね。しかしさまざまな場所で人に出会い、それらの人たちとFacebookなどSNSを利用して継続的につながることができるようになって、人間関係はとても広がりのあるものに変わっていきました。

いろんなところでいろんな人と知り合い、その関係がだんだん輪のようにつながっていく。気が付いたら自分の預かり知れぬところで、友人と友人が勝手につながっていたりします。「あれ、お二人知り合いだったの?」って聞いたら、「何言ってんですか、佐々木さんの家で食事した時に知り合ったんじゃないですか」って言われたこともありました。

3拠点生活というのは居場所が固定しておらず、ブラブラ生きてるように見えるかもしれません。しかしブラブラしているがゆえに、いろんなネットワークとつながることが可能で、実はそちらのほうがひょっとしたら安定しているという逆説的な時代になってきています。
東京でひとつの会社にぶら下がって閉鎖的な人間関係の中で生きているよりも、多拠点のブラブラのほうが安定している。友人がたくさんいれば何とかなるかなという安心感もあり、いい時代になったと思います。

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