インタビュー

「避暑地・軽井沢の魅力を伝えたい」という気持ちから、40年前に一人で雑誌を立ち上げた広川小夜子さん。その雑誌『軽井沢ヴィネット』は創刊から121号を数え、今では別荘族の愛読書的存在になっています。軽井沢の別荘のリビングで目にすることの多い軽井沢の高原誌です。そんな広川さんに、前編に引き続き、別荘地・軽井沢の魅力、軽井沢暮らしについてお話を聴きました。

100年続く別荘地

毎年国土交通省が調査する基準地価は、土地の売買のときに基準とされるもので、今年も9月に発表された。住宅地部門では去年に引き続き、軽井沢の別荘地が県内一位の上昇率を示した。軽井沢の別荘地はなぜ、そんなに人気があるのだろうか。
「それは、清澄な空気や樹々の香り、自然環境の美しさももちろんですが、100年以上の別荘地としての歴史と伝統があるからです。」と広川さんは答える。
明治時代、イギリス国教会の宣教師、アレキサンダー・クロフト・ショーによって拓かれた軽井沢は、明治から大正にかけて、西洋人が別荘を持ち、やがて日本の上流階級や政財界の人々が別荘を建てるようになった。

軽井沢の原点・ショー記念礼拝堂

軽井沢の原点・ショー記念礼拝堂

 

別荘物語と文化の薫り

広川さんはこうした歴史ある別荘を幾つも取材してきた。中でも軽井沢で最も古い日本人の洋館別荘、三井三郎助別荘は今も現存する貴重な別荘だという。

「建設されたのは明治33年ころ。そんな昔に造られたとは思えないほど、瀟洒ですてきな別荘です。」

写真を見せてもらうと、白い窓枠にレースのカーテン、シャンデリアに籐椅子が置かれた重厚な造りは鹿鳴館を彷彿させる。

「NHK朝のテレビ小説『あさが来た』のモデルになった広岡浅子ゆかりの別荘なんですよ。この籐椅子は広岡浅子が座ったもので、当時の写真が残っています。」

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浅子は三井財閥第6代当主・三井高益の娘。義弟にあたる三郎助と仲がよく、しばしば訪れていた。一つの建物に洋館と和館が備わっているという設計は建築学的にみても珍しいそうだ。日本でも屈指の財閥だった三井家の別荘には、首相を務めた西園寺公望はじめ政財界の重鎮たちが訪れた。インドの詩人タゴールが和館に泊まり、モミの大木の下で瞑想に耽ったというエピソードも残っている。

「室生犀星や堀辰雄など文学者の別荘やジョン・レノンの辿った散歩道など、美しい森の中に点在する別荘風景とともに文化の薫りが感じられるのが軽井沢の大きな魅力。それに惹かれて訪れる人、何回か足を運ぶうちに暮らしたくなって別荘を建てる人、それに新幹線が通ってからは移り住む人も増えました。」

軽井沢の常住人口は約2万人。別荘は約15,000軒。1軒に2人いたとしても3万人もの人たちが別荘で暮らしている計算になる。

 

軽井沢に家を作るなら、こんなところを気にしたい

やはり別荘の街と言える軽井沢。しかし、軽井沢の魅力にとりつかれ、定住する人々も多い。広川さんはそんな人たちの取材も続けてきた。

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「軽井沢のことをよく調べないで、イメージだけで移り住んで来る人が意外と多いですね。夏のおしゃれなリゾートの印象や、憧れの気持ちだけで家を建てると失敗します。例えば、軽井沢では開放感のある広々とした家を希望して、リビングを吹き抜けにする人が多いのですが、冬は暖房費がかさみます。窓の開口部が大きいと夏は庭の緑がきれいですが、冬は寒いですよ。また、ガラス張りの家は、太陽が当たると温室になってしまうほどとても暑くなります。冬はペアガラスでも寒いくらいの寒冷地ですから、断熱材をしっかり入れた壁にするのは重要です。」

失敗しないようにと建物のアドバイスをする広川さん。

「著名な建築家でも軽井沢で暮らした経験や実績がないと心配ですね。地元で長く建築を手がけて来た工務店や建設会社の方が軽井沢の特殊な気候や自然保護対策要綱をよく知っているので、相談するのに一番だと思います。移り住む前に、1年くらい『おためし暮らし』をするといいかもしれません。」

 

軽井沢スタイルとは

軽井沢暮らしでの楽しみのひとつ、それは四季折々の美しさ。緑と花の香り、野鳥のさえずり、枝を駆け上るリス…。都会では感じることの少ない自然とのふれあいが、ここでは季節ごとに楽しめる。もちろん、山菜、キノコ、木の実など高原の恵みも豊か。

一方で、街にはおいしいパン屋さん、レストラン、おしゃれなブティックなどお店もいろいろあり、少し足を伸ばせば信州ならではの楽しみも味わえる。

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「でも、忘れないでほしいのは、ここが標高1,000m近い山の中だということ」と広川さんが強調するのが『軽井沢スタイル』とも言うべき生活のルール。

「もともと宣教師が休息の場として拓いた避暑地なので、快適に暮らすための暗黙のルールがある」のだそう。それは、まず「自然の中に暮らさせてもらう」という気持ちを持つことだといいます。

「緑の環境を大切にする、ということは言うまでもありませんが、ここは標高1,000mの高原。クマも出るし、イノシシも出る。それは山の中だから当たり前のことなのです。そういう自然の中に住まわせてもらっているということを頭において下さい。例えば、コンビニは夜11時まで。夜遅くに騒ぐことは禁止されているので、花火も遅い時間にはできません。そんなことも含めて、不便な点も、愉しんで下さい。それが守られているから、すてきなリゾートであり続けているのだと思います。」

 
軽井沢、その「本当の」魅力。軽井沢ヴィネット初代編集長に聞く 〜前編」はこちらから

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